朝起きてすぐのぼんやりした頭で、テレビを眺めていた。

ふーん、昨日はこの夏1番の猛暑だったんだー。ふーん、株価下落かー。ふーん、あのイケメン俳優が結婚したんだー……けっ、こん……え、ええ?

「ぎっ銀ちゃ…銀ちゃんんん!」

スパァアアン、と襖が大変いい音で開いた。そこには寝ぼけ眼で、だけどそのいつもより生気のカケラも感じない目を丸くする天パ。

「なっ、なんだよォオオ!いくら銀さんでもなあ!朝っぱらからオバケなんか…!」
「ひろしが!あたしのひろしが!」
「………へ?」
「けっこん!結婚だって!」
「…………」

うあああ、信じらんないわ。いやあんなかっこいい人が今まで結婚しなかった方が信じらんなかったんだけどね!

「あのー…実紅さん?」
「しっかもさあ!相手一般女性だよ!?あたしでもよくないかなあ!」
「……よくねえええ!」

今までとても静かだった銀ちゃんが突然叫んだ。なにごとだ。

びっくりするあたしに銀ちゃんが喚き続ける。

「おまっ、そんなくだんねェことで俺の睡眠時間削りやがったのかよ!」
「くだっ…!?くだらなくないって!一大事だよ!」
「いーや!くだらねーよ!少なくとも俺にとっては!」
「ぎっ銀ちゃんのばーかばーか、天パ!」
「おっおまえええ!今ので全世界の天パを敵に回したぞ!」

なんだそれ!と必死で叫ぶと、寝起きに大声出したせいか急に体がけだるくなった。
なんか飲もうと立ち上がって冷蔵庫にまっしぐら。麦茶をコップに注いでいたら、銀ちゃんが俺のもー!とか調子のいいことを言ってきた。ふざけんなよ天パ!

「はい」
「おーサンキュ…って!なにこの麦茶!え、麦茶!?なんか沈んでんだけど!」
「銀ちゃんのための大量砂糖入り麦茶ですうー」
「おまっふざけ……あれ…うまいかもこれ!」

……この天パがいかに砂糖好きか、あたしは甘く見ていたらしい。ソファーに座って麦茶を飲みながら心の中で舌打ちをしてたら、銀ちゃんがずるずるとこっちに近寄ってきた。

テレビは結婚報告の様子を流していた。フラッシュが眩しい。

「なー、実紅?」
「うわあ、指輪高そー」
「っ…、実紅さーん?」
「もう!なんなのさー」

幸せオーラ溢れるテレビから、金欠オーラ溢れる銀ちゃんに頭ごと動かして目線を移す。
それにも関わらず銀ゃんは自分で呼んどいてなかなか喋り出さない。なんだよー、とまたテレビを見ようとしたら待った!と抱きしめられた。

「ちょ、なに!なんなの!」
「………一回しか言わねェぞ」
「…へ?」
「よよ、よく聞けよ!?」
「う…うん」
「2回目はないからな!」
「…うん」
「ちゃんと聞きとれよ!?」
「いや、しつけーよ」

パンチすると、銀ちゃんはテンパりながらも息を大きく吸った。

「おっ…俺と結婚したら!あんな野郎と一緒になるより幸せにしてやらァ!」

…………………。

思考がフリーズ。今銀ちゃんが言った台詞が何回も頭を巡る。ぐるぐるぐる。でも、もうなにがなんだかわからない。きっと今あたし変な顔だ!

「…実紅?」

よし落ち着けあたし!深呼吸、深呼吸。すー、はー。……あれ、あたし銀ちゃんになんて言われたんだっけ。ああ、そうだ俺のが幸せに…って。

「あんな野郎より幸せにするから!俺のお嫁さんになってください!」

ぐちゃぐちゃな頭の中に銀ちゃんの声が響き渡って、あたしの中でいろんななにかが溢れでた。

「…ぷっ…ぶはあっ」
「な、なに笑ってんだテメェエ!」
「だって!…ぷっ、結局2回言ってんだもん!」
「あっ…ああ!?おおおまえがよくわかんねえみたいなツラすっからだろ……って、え?あれ?実紅ちゃん?」
「………こっち見んな天パ」
「えっええ!?いやっおまえなんで今度は泣いてんの!」

ああ、最悪だ。寝起きで髪はぼさぼさで、もちろん化粧なんかしてないし、しかも泣き顔で、ムードのカケラもない。なのに、なのに、なんで。

「なんで…こんなっうれしいんだか…っ」
「……バカ、銀さんのプロポーズがうれしくねーわけねーだろコノヤロー!」

きらきらしたゆびわなんていらないの



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