突然投げかけられた話題が、あまりに突飛な話で言葉につまった。 いつだってへらへらとだらしなく笑う口は、はじめて見るくらいに真っすぐに閉じられている。
「なんかあったのか」
答える代わりにそう聞けば、少しだけ、笑った。うーん、と、困ったように。こんな顔もすんのか、なんて少し驚いた。
「なんとなく、…ね。阿伏兎にしか頼めないし」
なにか隠したんだと、そう思った。
「なんとなく、なんだ?なんかあんだろ」 「……阿伏兎は、するどいなあ」
まただ。困ったなあ、と小さく笑う。不自然だ、似合わねェ。
「ちょっと嫌な予感がして、ね」
数日前の会話を思い出して、喉が熱くなった。隠すように口を動かす。
「嫌な予感ほど、よく当たるたァこのことだな」
そうつぶやいたところで、石は何も返しはしない。 実紅がいなくなった今となっては、この石がアイツの代わりに俺の独り言を聞く役だ。
「…ちょいと役不足だがな」
どかりと石の隣に座り込む。
『ねー、阿伏兎』 『あ?』 『あたしが死んだらさ、お墓…作ってくれないかなあ』
あの時の、アイツの顔が脳裏をちらつく。縁起でもねェ話だ。それからすぐ、その頼みを聞くことになるなんてな。
「墓石だけどよ、バカでかくなっちまった。団長がこっちのが見つけやすいとか言ってな」
座るオレの3倍くらいありそうな石…っつーか岩。
「おい実紅、知ってるか」
でかいだけの墓石は、ただ横でじっとしている。つまんねェもんだ。
「墓参りっつーのはな、花を持ってくもんなんだと」
石の前に、さっき見つけた花を置いた。
生きてる時になんか当然、花なんざやったこともない。自分でも、ガラでもないことだと笑いそうになった。だが一人で喋って、あげく笑ってちゃなんだかいたたまれねェだろう。
「よく考えりゃ、おまえさんが好きな花の一つも知らねェんだな」
完全に花より団子を貫いていた実紅は、こんな花よりは食えるもんを供えた方が喜ぶかもしれない。だが生憎、アイツが好きそうなもんなんて持ってなかった。
「今度来るときは、ちゃんと食えるもんでも持ってくるかね」
今度、がいつになるかはわからない。ゆっくり腰を上げた。そろそろ船がこの星を発つ。 言いたいことはもっとたくさんあったはずなのによォ、結局無駄話で終わっちまった。
それじゃあな、と挨拶して背中を向けた。数歩、足を進めたところで立ち止まる。
「実紅」
少しだけ、何に期待したのか、あの声が返ってくるかもしれない、なんて。
やけに静かな空気に、思わず笑ってしまった。
「…返事くらいしてくれってんだよ」
せめて、うるさいくらい聞き飽きたあの声をもう一度聞きてェだなんて、俺ァいつからこんな女々しくなっちまったのかね。
な い も の ね だ り
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