自分でもなんたる悲劇的ポジションだと思う。だいたいわたしはこういう面倒なことは嫌で、面倒なくらいなら人なんか好きにならないと思ってた。 「実紅、お疲れさん」 ぼんやり見てたら目が合ってしまった。でも目が合った、って単純に嬉しかったわたしはもういない。 わたしの気も知らないで顔にクマなんかつくりながら笑いかけてくるツンツン頭の上司。 なんかすこし腹立つ、とか思いながらも、やっぱり嬉しいと思う。今度はそういう自分に腹が立った。 「お疲れ様です」 こんな葛藤と戦いながらもう数ヶ月が経つ。何やってんだと自分に言いながら、この笑顔から離れられなくてずるずる好きでい続けたのはわたしだ。 「上機嫌ですね」 班長は少し目を丸くした。他の人はきっと気付かないくらいの小さい違い。 ただ、その原因が彼女だと分かってるくせに、そして結局その答えに傷つくと分かってるくせに。会話を続けたいってだけで自分で自分の首を絞める自分が嫌だ。 「あー…はは、バレちまったか」 幸せオーラがだだ漏れですよ。そう言いたいのに、笑顔にやられた。 「今日な、アイツが帰ってくるんだ」 やっぱり。そう思いながらも、分かりきったことにまた少し傷つく。 「そうなんですか」 「おう、ケガなけりゃいいんだけどな」 あーあ、わたしはなんてバカらしいことしてるんだ。 「きっと、無事です。元気に帰ってきますよ」 笑っちゃうなあ、いや、今のうちに笑っとくべきか。元気に帰ってきた彼女を見て今より嬉しそうに笑う班長を見たら、きっとわたしは泣きたくなる。 「なら…いいんだけど、な」 「……班長、」 班長の顔に少しだけ影が入ったのを見て、やっぱりほっとけない気持ちにかられた。ああもう!わたしのバカ! 「班長が待ってくれてるんです…、大丈夫ですよ」 すでに泣きそうになった。もう泣くしかない、後で自室にダッシュしよう。 「実紅、」 「はい?」 「お前って本当すげえなあ…、ありがとよ」 じゃあな、と片手を上げて班長が身を翻すまで、涙をこらえた自分を褒めてやりたかった。 ほしかったのは ここじゃない |