つい10分前。静雄が部屋にやってきた。でも来ただけで何もしゃべらない。最初は仕事で疲れたのかと思ったけどそうでもないみたいだ。すこし様子がおかしいような気がする。どうしたのって聞いても返事がない。

カチカチと時計の音だけが部屋に響く。空気重いぞ、なんか居心地わるいし。

「…しずおー、いきてる?」
「……」

なんですか、返事がない屍のようだーですか。

「しずお、冷蔵庫にプリンあるよ?」
「………」

プ、プリンにも反応なし…!?ダメだいよいよ分からない。なにがここまで静雄を屍状態にしているのか。よく見たら静雄の顔だけ赤くなったり青くなったり緑になったりせわしない。緑って大丈夫かマジで。

「熱…はないなあ」
「!」

ぽん、と固まる静雄のおでこに手を当てた。とたん静雄がカッと目を見開いた。こ、こわっ。

「………実紅、」
「…な、なんでしょうか」

思わず敬語を使いたくなるほど不気味だった。結局真っ赤と真っ青をいったりきたりする顔色の静雄と目が合う。

「そ…その、あの、なんだ、だから、つまり」

病院、いや新羅のとこに連れてこう。そう思ってとりあえず新羅に電話しようと静雄にぐるりと背を向けた。

「ま、まっ、待て!」
「うおごばっ」

襟を引っ張られた。死ぬ、冗談ぬきで。ぐいっと後ろに傾くわたしの体は、傾けさせた張本人によって抱きとめられた。

「ししし静雄!なに、どうし…」

テンパるわたしは背後で静雄が息を飲むのを感じて、なんだか何も言えなくなった。

「…実紅、おまえ平和島って名字、どう思う」

………ど、どうってなんだ…。どうもなにもなくないか。いやそりゃ静雄に平和島は名前負けだと思うけど。

「……いやか?」

な、なぜしょげる!

「い、いやじゃないよ!いいと思う!平和島!」
「……ならよォ、おまえも平和島にならねえか?」

………ん?

「え、え、へ?」
「………………」
「………………」
「………かえる」

ぽかん顔のわたしを置いて、帰ろうとするその背を見て反射的に体が動いた。
ぐい、と襟をつかむ。

「うぐ…えっ」

ぼすん、と倒れてきた静雄を受けとめる。でもバランスを崩して結局わたしも静雄も床に座りこんだ。痛いぞ、それに重い。

「…しずおくーん、さっきのってさ、プロポーズ?」

後ろから抱きつく。ぎゅう、って力いっぱい。

「…っそ、それは…!」
「静雄はさ、平和島実紅ってどう思う?」

静雄がバッといきおいよく体を離した。照れてんのかなとか思ってたら間髪入れずにぐるんと、静雄の体が回転した。あ、目が合った、とか思ってたら今度は正面から抱きしめられた。

「…すげー、いいと思う」

照れた声が左耳から聞こえてきた。なんだかわたしまで恥ずかしくなった。





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