仕事中、唐突に聞かれた。あたしの好きなとこ、どんくらい言える?って。 また訳のわからんことを言い出したなと頭の半分で呆れながら、もう半分は必死にこいつのどこを好きになったのか考えていた。 「ま、まさか言えないの!0!?」 「いっいや違う!すぐには思いつかないってだけでだな!」 「あーもう、しっかたないなあ、リーバーは」 はあ、と大袈裟にため息をつかれてなんとも情けない気分になった。 「じゃあね、そんなリーバーくんには宿題をあげようか」 「しゅ、くだい?」 「うん、あたしが明日からの任務から帰ってくるまでに、考えといてね!」 からかうように笑ってオレの机にあった白紙(っつーかそれ書類の裏なんだけど)に、オレの手から奪い取ったペンで『好きなとこ考えとく』と書いて四角でぐるぐる囲むと、机の引き出しにテープで貼りつけられた。 でもオレの意識はすでにそんなとこにはない。なにげなく言われた台詞に引っ掛かる単語。 「明日からの…任務?」 「うん、急なんだけどねー」 いくら普段から鈍感だの鈍いだの言われてるとはいえ、なんてことなさそうに笑うこいつが、本当は不安でしかたないことくらいは分かる。 こんなときだ。自分の無力さが嫌になるのは。 オレはこいつを戦場で守ることも、ましてや一緒に戦うこともできない。 こいつは、リーバーはリーバーの戦場で立派に戦ってるでしょうが!、と言うが、できることならオレだって大切なやつくらい自分の手で守りたい。 でも、どうしたってそれができないオレは、おまえに何ができるんだろうか。 不安なんか微塵も見せずに、それじゃあ準備があるから!とラボから廊下へと続くドアに体を傾けた実紅の手を引っ張る。 椅子に座った状態のオレに、引っ張られて実紅の体がぼすんと収まった。 そのままぎゅう、と力いっぱい抱きしめると、ちょっと苦しい、という声が聞こえて少し力をゆるめた。 「実紅、」 「ん…?」 「宿題な、お前がびっくりするくらい書いといてやるよ」 「うん」 「だから、無事、帰ってこい。それから、」 実紅の背中に回していた左手で机の上から一枚、いらなくなった書類を取り出して裏返す。そこに実紅が書いたのと同じようにペンを走らせ、実紅の額にぺしんとテープで貼りつけた。 「……好きな、とこ?」 貼りつけられた紙をぺりっと額から剥がして、不思議そうに文字を追う。 「なんか不安になったら、オレのどこが好きか、考えとけ!」 「へ、あたしも?」 「当たり前だろうが。…いいか、絶対報告しに帰ってこい!」 自分でも何恥ずかしいこと言ってんだろオレ、とかちょっと思ったけど、分かった!リーバーよりたくさん書いてやる!と笑った実紅を見て、そんなのどうでもよくなった。 世界一だいじな君に オレができること |