「あのさ、いざや」
「うん?」
「あつい、ものすごく」

実紅がものすごく欝陶しそうに言うから俺もああそうと適当に返して、それから実紅の首に回した腕にさらに力を込めて肩に顔を乗せたら実紅の裏拳が飛んできた。

まあかわすのなんか余裕なんだけど、わざと演技がかった口調で怖ーいなんて言ってみる。
そうしたら実紅が怒るって分かってんだけどさあ、面白いんだからしかたないよね。

「実紅ちゃんったら…暴力はーんたーい」
「いざやも暑いでしょ」

まあそれもそうかなあと俺はしぶしぶ実紅の肩から自分の顔を外した。でもさあ、いくら暑いからってそんなに拒否されたらさすがに面白くない。

「ねえ実紅」
「んーなに」
「寒けりゃくっついていいの?」
「え?なにそれ」
「だってさあ暑いのがやなんでしょ?」

返事を聞かずに立ち上がる。目的のものを見つけてピピピピピピッとボタンを連打した。
次の瞬間ゴォオオとクーラーがフル稼動する。ちょうどクーラーの下にいた実紅は驚いて立ち上がった。予想どおりの反応に口元がゆるんだ。

「ちょ、何℃にしたの!」
「んー、16℃だけど?」

俺の右手にあるクーラーのリモコンには16℃と表示されている。実紅は、馬鹿じゃないの!とか言いながらリモコンを取り上げようと腕を伸ばしてきた。

「甘いなあ、実紅」

その手を空いた左手で掴んで思いきり引き寄せる。実紅はその勢いのまま俺にぶつかった。そのままくるりと回転させて、さっきみたいにその後ろ姿に抱きつく。

「あーもー…いざや!…うざい!」
「うん?暑くはないでしょ」
「そ、ういう問題じゃ…」

そこまで言いかけて、でも途中で諦めたらしい。満更でもないくせに素直じゃないなあ本当。

「うん、まあ俺は実紅のそういうとこ好きだけどね」
「…人間ならみんな好きなくせに」
「あっはは、嫉妬してるの?」
「っ…死んでしまえ!」



意地っ張りな君におしおきを考えました


title:おやすみパンチ


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