身動きがとれないから目だけ動かして窓から宇宙を見る。見慣れた景色だけどやっぱり宇宙ってすごいなあなんて考えてたら頬に鋭い痛みが走る。

「…動くなよ」
「だって痛い」

おまえが悪いんだろうが、と阿伏兎は眉間にシワを寄せて消毒液を脱脂綿につける。

「ねえ、わたし夜兎だからそんな消毒なんていらないよ」
「そういう問題じゃねェ」

もう何回このやりとりを続けただろう。
傷ならすぐに治るのだから消毒なんていらない。それは同じ夜兎である阿伏兎だってわかってるはずなのだ。
なのに任務で珍しく顔も体も傷だらけになって、そのまま船に帰ったら出迎えた阿伏兎が春雨の他の師団から消毒液をもらってきた。

生まれて初めての消毒はものすごく傷に染みた。いたい。

「おまえさんは一応女だろう」

おでこに脱脂綿が触れて痛みに体を震わすと呆れたような阿伏兎の声が飛んできた。

「うん、そうだけど」
「なら顔に痕でも残ったら困るだろ」

そうだろうか。だいたい今までの体についた傷は綺麗に治ってるんだから顔だって大丈夫だと思う。
不満げなわたしにため息混じりに阿伏兎は言う。

「嫁に行けなくなっても知らねェぞ」
「…………嫁?」

なんというか、思わず笑ってしまった。そうしたら阿伏兎はますます不機嫌そうな顔になる。

「そういうことならやっぱり消毒なんかいらないよ」

意味がわからないといった表情の阿伏兎の手から消毒液を抜きとる。

「嫁になんか行かないで、ずっと阿伏兎たちと一緒にいるもん」
「……さみしいやつだな」
「そういう阿伏兎はなんで嬉しそうなの」
「誰が嬉しいかよ、すっとこどっこい」

これ返してくるよ、と奪いとった消毒液を手に立ち上がればちょっと待てと引き止められた。

「なに?」
「おまえさん嫁に行く当て、ないんだろ?」

うるさい、どうせわたしは寂しいやつだよ。ちくしょーとか思いながら睨みつけるとニヤリと笑われた。なにがおかしい。

「ならよ、俺がもらってやる」
「……、マジでか」
「おう」
「し、しかたないな!もらわれてやるよ!」





title:おやすみパンチ


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