駅から出て、数年ぶりの池袋をくるくる見回した。
「(みんな、元気かなあ)」
高層ビルを見上げながら高校時代を思い出す。 新羅は、理想の恋人なんだよ!とかいつか僕のものに!とか言ってた彼女とまだ同棲できてるかな。あいつ変態だからなあ…。仲良しだといいけど。 変態新羅に比べて京平はきっとあのまんま、常識人なんだろうなあ。高校じゃいろんな人に振り回されてたからなあ。あたしもその内の一人なわけだけど。 …で…とりあえず臨也は元気だと思う。いやなんの根拠もないけど確信してる。アイツは地球滅亡の日もアハハハハって笑ってそうだ。
……それから…。
そんなこと考えながら歩いていたら人だかりが目についた。なんだか誰かが叫ぶ声が聞こえる。まだ真っ昼間っていうのに喧嘩?
そうだ、喧嘩っていえばアイツ昔あたしと歩いてる時、あたしと肩ぶつかったーとかで喧嘩ふっかけてきた大人3人くらい吹っ飛ばして……ってまあアイツは覚えてないだろうなあ…っていうかあたしのこと自体忘れてたら、ど、どうしよう。なんか泣きそ…………泣きそう?な、なんだそれ!
「…?」
突然あたしの耳に入ってきた名前に思わず足を止めた。そこで数秒とたたない内にさっきの喧嘩を遠巻きに見る人が口々にその名前を呟いているのを確認した。そうしたら居ても立ってもいられなくて気がついたら人だかりに足を向け、その中心に割って入っていた。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇぇえ!」
ようやくケンカの状況を確認できるところまで来てああやっぱり!とため息が出た。そして聞こえてきた叫び声はまぎれもなくあたしの元同級生なのだ。
「静雄…!」
あ、しまったと思った時にはもう遅くて、思わずケンカの輪の中心に飛び出していた。標識を振り下ろす瞬間のままフリーズする静雄と座り込んで鼻水と涙を同時に流す男の人。
しかもその誰こいつみたいなポカン顔。や、やっぱり忘れられてんのか…! そう思ったら恥ずかしかったり悲しかったりですぐさま回れ右した。
「す、すいませんでし」
た、と。すいませんでしたってそう言って後はダッシュで逃げるつもりだったのにできなかった。ぴゅーん、というかなんかそんな感じに体が後ろに引っ張られ、戸惑ってたら視界いっぱいに静雄の顔。しかも無言。堪えられなくなってあたしはとりあえず、
「高校の時の…」
自己紹介しようとしたら静雄に遮られた。
「実紅だろ、なにしてんだ」 「あっ…え、あっ、その、」
誰?と言われるのが怖かったから
「ひ、久しぶり!」 「おう、変わらねーな」 「お互いね、とりあえず…標識置いてくれるかな!」
だからその分嬉しかったり。
title:おやすみパンチ
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