ちょ、ちょっと待ったあたし。
落ち、おち、おちつけあたし。

任務は終了して、この星にもう用はなくて、船が到着する場所に向かった。けれどいつもならあたしより先に着いてるオッサンがいなくて、なんとなく嫌な予感がして。気付いたら集合場所から駆け出していた。そしてしばらく走ったとこで見つけたのだ。地面に倒れた、阿伏兎を。いや、違うよね。阿伏兎が、そんなこと、あるわけない。

違うと自分に言い聞かせた。目の前でぴくりとも動かない、そのふわふわした髪の毛も、握ったままの傘も、見間違うはずがないのに。

「あ、はは。似てる、人も、いるもんだな」

違う。違う、でしょう?
地面にうつぶせたままの体を起こそうとして手が止まる。
やだ。やだやだ。やだ、よ。阿伏兎、嘘でしょ。違うでしょ。そっくりさんか。むしろあたしの悪夢でしょ。

膝をついて震える手を何度も伸ばした。だけどいっこうにふわふわした髪とあたしの手の距離が縮まらない。

バカ、違う、夢だ。なに震えてんだか。なにを、怖がってんだか。

ぐい、と肩を掴む。そのまま仰向けにひっくり返す。

「あ…ぶ」

頬をつねる。痛い。覚めない。夢じゃ、ない。ぼたぼたと渇いた地面に水滴が落ちた。

「あぶと…?」

がたがたと肩を揺する。それでもなんの反応もなくて、たまらなくなって見慣れた黒い服に顔を埋めた。

バカ。阿伏兎のバカやろう。なんで、死んじゃうの。あたしには阿伏兎、が…

「……実紅…?」
「………え…?」

耳元で声がした。聞き間違うはずがない、阿伏兎の声。

ばっと体を離せばゆっくり起き上がる阿伏兎の体。

「な、んで…?」
「オレとしたことが、気絶してたみてェだな」
「…………」

参ったねェそろそろ引退か、とか好き勝手しゃべる阿伏兎に絶句した。なにおまえ、すごい元気じゃんか!

「し、死ねよ阿伏兎!」
「本当に死んだってなったらんな風に泣くくせになァ?」

くい、と阿伏兎の指があたしの頬をぬぐう。酷ェ顔だなと笑う阿伏兎に心の底からイライラしてるくせに、どうして。あたしは今うれしくてしかたないのかな。

「…死んじゃったかと、思った。本当に、阿伏兎がいなくなっちゃうかと、思ったんだよ…」

思い出すだけで鳥肌が立った。それなのに目の前のオッサンはくつくつ笑う。なんなのこいつ!

「なに笑ってんだバカあぶ!」
「いやなに、オジサン嬉しくってな」
「は、あ!?」
「おまえさんがそんなに悲しんでくれるなんてねェ」
「っバカ!」

くしゃりと髪を撫でられた。なにが嫌って本気で喜んじゃってる自分が嫌だ!

「…ないで」
「ん?」
「死なないで、阿伏兎」

約束して、と自分でも情けないくらい小さい声でつぶやけば返事の代わりにぐいと腕を引かれてあたしは阿伏兎の腕の中におさまった。

「おまえさんが待ってるってのにそう簡単にゃ、くたばらねえよ」



戦場で指切り





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