「え…、今から任務なの?」
「ああ」

見上げると少しだけ申し訳なさそうな顔。阿伏兎は数時間前に任務から帰ってきたばっかでしょ。そんな話聞いてない。
そんなあたしの不機嫌オーラを感じ取ったらしい阿伏兎がなだめるようにポンポンと頭を触るのがまた気にくわなかった。

「…次の任務の後は休みだから一緒にいてくれるって言ったくせに」
「あー…その、悪いな」

いまだ頭の上を上下する掌。本当に阿伏兎が悪いなんて思ってないし仕方ないことだってわかるけど、でもあたしはワガママだから。

「じゃああたしも連れてって」
「そんなに人員割く程の仕事じゃあねェんだ」
「それなら阿伏兎が行かなくてもいいじゃんか…」
「……悪いな」

20センチ先の阿伏兎の服を掴んで引っ張る。大人しく引っ張られた阿伏兎の体におでこがくっついた。そのまま背中に手を回したら数秒後にあたしの背中にも阿伏兎の腕の圧力。

「……ごめん、ワガママ、でした」
「いや…おまえさんのワガママなんてかわいいもんだ」
「…ちょっと最近阿伏兎不足だっただけ、だから」
「そりゃまたかわいらしいこと言ってくれるねえ」
「…るっさい」

あたしがいいって言うまで離さないで、とそう言えば頭上で阿伏兎がクツクツ笑ったのがわかった。なにがおかしいんだ…!

「…なんか不公平だ」
「なにがだ?」
「……阿伏兎は、あたしがいなくても大丈夫そうだなって」
「…なに寝ぼけたこと言ってんだ」

すっとこどっこいと阿伏兎がぼやいた瞬間、あたしの背中に回された腕に力が込められた。ちょ、やばい息できないんだけど!

「おまえさんがいなくても大丈夫?バカ言うなよ。オジサンもうお仕事行きたくなくてしかたねェんだ」
「っわ、わかっ、た、から、はなし、て…!しぬ!」

な、なにこれ恥ずかしい!バカじゃないの阿伏兎!
力任せにぐい、と阿伏兎の体を押しのける。

「なに照れてんだ、おまえさんは」
「てっ、照れてない!もういいからさっさと行けバカ阿伏兎!」
「…そうかい…なら、行くとするかね」
「あっ、それから!」
「ん?」
「さっさと帰ってこい!」

そう叫んだら今度は少しだけ笑って、そのまま部屋を出ていった。



よそみしちゃやーよ

こんだけで満足なんだからあたしも相当現金だなあ


title:おやすみパンチ
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