深夜の仕事中なんてもう睡魔との戦い以外のなにものでもない。 そんなわけで徹夜明け、バタバタ倒れてく科学班のみんなが夢の中に旅立つのを見送りながら、あたしは班長のデスクに向かう。 班長と向かい合わせのデスクで突っ伏して寝てるやつをどかし、自分の書類を置いて、ここで仕事していいですか?と一応聞く。 呆れながら、はいはいどうぞって許してくれるのなんかわかってる。だっていつもこの席はあたしの特等席なんだから(こいつが寝てる時だけだけど!) 「そいえばジョニーが新しいTシャツ見せてくれて」 「あいつ…んな暇あんなら仕事しろよなあ…」 「タップ、こないだ寝言で班長が追ってくるって言ってましたよ」 「…よし、あとで追いかけまわす」 「はは、鬼ですね」 二人で喋って、仕事して、なんやかんやで体力もないあたしが班長とラスト二人になるまで頑張れるのはこの時間のためなのさ…! 「なあ、実紅…」 「はい?」 「変なこと聞いていいか…?」 「へ?」 なんだそれ、とペンを止めて顔を上げれば尋常じゃないくらいに目を泳がす班長。なんだろうともう一度書類に目をやったら、さっきまでとは比べものにならないくらい小さな声が聞こえた。 「おまえ最近、告白されたって…本当か?」 「ぶふう…っ!」 な、なんだそれ! コーヒー吹いちゃったし! 「ちょ、バカ汚いぞ!なに吹き出してんだ!」 「だって!班長が!いきなり訳わからんことを!」 しかも告白ってあんた女子高生かなんかか。 「…すまん、その…室長が…」 「そんなの室長の冗談に決まってるでしょう!」 「そ、そうか…そうだよな…すまん」 ふきんを持ってきて吹き出したコーヒーを拭く。あー、この机のやつに申し訳ない。それもこれも巻き毛の悪巧みのせいだ、ちくしょう! 「なんでそんな嘘すぐに気付かないんですか…ってあれ、なんか虚しい」 「…しかたないだろうが」 「へ?」 「焦るに決まってんだろ」 「あ、あたしに先、越されちゃうのそんな嫌ですか!」 「んな訳あるか」 ため息まじりにそう言われてポカンとする。じゃあなんだって言うんだ。 あーとか、うーとかうなってる班長はなんだか見てて面白いけど。 そんな風にぼーっと見てたら班長がいきなりがたんと立ち上がった。椅子倒す気か。そのまますごい勢いでこっちにくるもんだからびっくりする。今日の班長おかしいぞ。 「な、なんですか?」 「焦ったんだよ、オレは」 「いやだからなにが…」 「オレみたいに、おまえなんかを好きになる物好きがいたのかって」 「…………は、」 え、なに、それ、は、つま、り… 徹夜明けの頭がぐるぐるぐるぐる。 気付いたら徹夜明けでクマがひどい班長の顔。ち、ちかい近いちかい! 「どんな奴よりオレのがおまえと付き合い長いはずだろ」 「!…そうですね」 班長はなんだか不機嫌そうに眉根をよせて、人差し指であたしのおでこをぐい、と押してきた。 「で、オレが1番おまえの世話みてきたつもりだ」 「そう、ですね」 「…だから、そんなひょいと告白なんかしたやつに、」 はいそうですかと渡せるか バカだな班長 そんな簡単にあたしが渡されちゃうもんか title:家出 |