あと、20分。

先生の焼け野原な後頭部を見ながら考えるのは授業が終わらなければいいのになんていう普段のあたしからは考えられないようなこと。

今日の朝、席替えがあった。
くじをひいて自分の席を確認したら窓際1番後ろで。なんて素敵な席だろうか。そう思っていたところに神威がやってきたのだ。

『くじ、交換しない?』

まさか、この最高な席を誰が渡すか。と、思ったんだけれど。

「(結局、窓際1番後ろより魅力的だったんだ)」

絶対いやだと交換を拒否したあたしに神威が笑って付け加えた条件は、窓際1番後ろよりもあたしの心に響いた。

『隣だよ?あいつの』

そして今あたしの隣には阿伏兎がいる。それだけでも十分幸せなのに、今の授業に限ってさらに近い。なぜなら阿伏兎が教科書を忘れたから。それを授業開始直後に告げられたあたしは心の中で神に感謝した。

机をくっつけて、同じ教科書を見て。そんな状況であたしが授業に集中できるわけがないのだ。意外に真面目に授業聞いてるんだなあとか、赤ペンがおそろいだ、とか。

授業終了まで、あと30秒。結局この一時間、あたしの意識が黒板に向くことはなかった。

チャイムが鳴って起立礼。

ガタンと机を離した。あーあ、時間って残酷だ…!
この一時間、何も書かなかったノートをぼんやり見つめていたらコンコンと机を叩く手。

「実紅、」
「へ?」
「教科書、ありがとよ。今度なんかおごる」
「マ、マジでか!」
「おう、放課後暇な日、コンビニでも行くかい」
「っ、うん!」

席替えから始まる彼女の幸運


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