物心ついた時から今現在まであたしの居場所は戦場だった。
だからいつか死ぬ時も、きっとそこは戦場だって覚悟してたしそれでよかった。ただもし神様がいるなら、最期に隣に阿伏兎がいればいいなあってお願いしたんだよ。

「神様って、いるん、だね」

喋りにくい。
だけど最期くらい何か伝えなきゃっていう妙な焦燥感があたしの口を動かした。

「何言ってやがんだ」
「だって、ほら、隣に阿伏兎が、いる」
「…もう喋るな。いったん船に戻って…」

あたしを抱きかかえようとした阿伏兎の腕を、残り少ない体力を総動員して止めた。
どくどく血があふれる感覚とぼんやりしていく五感。
歪んできた視界の中で、阿伏兎が思い切り眉間にシワを寄せたのがわかった。

「いい、もういいから、聞いてよ。さいごのことば、くらい」
「冗談言ってんじゃねェよ、すっとこどっこい」
「あは、あたし、あぶとの、それ、すき」
「喋るな」
「あ、ぶと」

阿伏兎は分からず屋で、あたしをまた抱きかかえた。あたしにその腕を押し返す力はもう、無い。
でもこれもいいかもしれない。阿伏兎の腕の中で、死ねるんだから。

「すき、だなあ。ほんと、だいすき」
「喋るなっつってんだろ。もともとたいした顔じゃねェが、もっと酷くなるぞ」
「はは、ひどい、な。そいえばさ、あぶと、いっかいも、いってくれなかった、ね」
「…何の話だい」
「あい、してる、とか、だいすき、とか」
「オジサンに何を求めてんだよ、おまえさんは」

いくら頑丈な体でも、もう限界を超えた気がした。
瞬間、指先から順番に感覚が無くなってって、視界が狭くなる。聴覚が機能しなくなって、今までうるさかった戦場が無音の世界に変わった。

最期にもう一度よく顔を見ようと思って手を伸ばしたらモザイクかかったみたいな阿伏兎の顔がこっちを向いた。

「     」

阿伏兎が何か言ったけれど、ダメだ。なんにも、聞こえないよ。
もうついに、おわかれだね。
このまま死ぬのもなんだから血とか涙で酷いらしい顔を歪ませて笑ってみる。

ただその直後に視界が真っ暗になったせいであたしの笑顔に対する阿伏兎の反応は確認できなくなった。未練、残っちゃった、なあ。


ねぇ、阿伏兎。
最期に言ってくれた言葉は、あれ、あいしてる、であってるのかな。



願わくば、来世で


もういっかい、いまの言葉、言ってね。



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