あ、と思った時にはもう遅かった。
噴水に突っ込んだ片足が滑って、自分の体が傾く。ばしゃんっていう音とリーバーの「ええっ!?」っていうマヌケな声が遠くから聞こえた。



「ホントにバカだ、おまえは」

リーバーの呆れかえった声がすぐ側でひびいた。くそう、公園から今までの道のりでもう5回は聞いたぞ。

「ははは、素敵な乙女には噴水に入らなきゃなんない瞬間が必ず訪れるもんさ」

あー、おんぶなんてしてもらうの何年ぶりかなあ。すりむいた膝は血がにじんでる程度で全然大丈夫なんだけどザ・心配性なリーバーはおんぶするって聞かなかった。ガンコだなあ本当。

「バカ、落としたなら落としたって言えばよかったろ」

言えるかバカヤロー。
リーバーが初めてくれた指輪を噴水に腰掛けつつ外して眺めてたら落っことしちゃった、なんて。

リーバーにあんまり大事にしてないって思われるより、片足を犠牲にして噴水に入って拾った方がマシだったの。

まあ結果として犠牲は片足どころじゃなくて、しかもアイス買いに行ってたリーバーに指輪落としたこともばれちゃったんだけど。

「実紅…ひざ、大丈夫か」
「うん、なんかすみません」
「…ホントにな。ったく、おんぶすんのも恥ずかしいんだぞ」

人通りが少ない道でよかったとかぶつぶつつぶやくリーバーはお母さん並の口うるささだと思う。

それにしても。

「よかったなあホント」
「はあ?なにがだよ」
「指輪、ちゃんと拾えて」

婚約指輪じゃないから右手の薬指にいつもつけてた大事な指輪。
これが見つけられたなら噴水で転んだことなんて簡単にいい思い出にできる、はず。

「そんな高いモンじゃあるまいし」
「値段じゃないんだよ!リーバーのバカ」

インテリのくせにそういうとこは鈍い。乙女心のわからん奴め。

「うわっ、こら殴るな!落とすぞ!?」
「や、やだ…!また指輪なくしたらどうすんのバカ」
「……なあ、実紅」
「なにー」
「その…噴水に入って、しかも転んでケガなんかしたことは呆れるしかねえけど、」
「だからごめんって言っ」
「けど、そんなに大事にしてくれて…それは…あー、うん、嬉しかった」
「……ぷっ、ははは!うん……リーバー!」
「な、なんだよ」
「すき!」
「な…っ、ななななに叫んでんだよバカ!」
「わっ、ちょ、リーバー…!落ちるっ…」

ぐるりと勢いよくこっちを向いたリーバーのせいでバランスを崩し、あたしはおんぶされた状態のまま地面に落っこちた。おしり痛い。

「睨むなよ!おまえのせいだろうが……大丈夫か?」
「おしり痛いバカ」

悪かったって!って謝りながら伸ばされた手をつかんで、そのまま離さずに歩き出せば少し遅れてリーバーの焦った声。

「ななななんだよ今度は!」
「足なんて擦りむいた程度で歩けるしさ。まあ、おんぶはおんぶで快適だったんだけど」
「いいご身分だな…!」
「なんか…手ぇ繋いで歩きたくなったの」
「……おんぶ並に恥ずかしい」
「はは、人通りも少ないんだし。たまには恋人繋ぎくらいしよーよ」
「…はあ…ホントに、人通り少なくてよかった」



さんぽ道溺死




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