あいつを最初に見たときは、本当に、心底、驚いた。

だって普通そうだろ?
目の前に現われたあいつ、鬼道にそっくりだったんだぜ?

今はもう居ないけど、影山もよくやるなと思う。あんなに鬼道に固執してるなんて知らなかった。





そこまで考えて、オレは息をふっと吐いた。そんなこと考えるのに何の意味があるだろう?青空に吸い込まれそうな錯覚を起こす。

そんなにも空が晴れている。馬鹿らしくなる、全部が。それ以外になにが必要なんだ?


「…不動、」

「あ?」


後ろからジャージの袖口を引っ張られて振り向く。

なぜかジャパンエリアにやってきた(本人曰く、迷ったらしいが…嘘に決まってんだろ、そんなの…)デモーニオが不安そうにオレを見つめていた。



「…こっちで、合ってるのか、?」

「ばーか!オレが道に迷うかよ。」


つーかちゃんと方向感覚あるじゃん。大体なんでお前一人できたの。


「──…鬼道有人、」

「…会いたかったのかよ?」


そのままこくんと頷くデモーニオは、自分がどのくらい奴に似ているか分かっているのだろうか?

──自分がどのくらい奴と違って不運なのか分かっているのだろうか?



「会いてぇってもな──…オレも鬼道ちゃんの行動把握してるわけじゃねぇし…」



大体、一人で来るこたぁねぇのによ。他に誰でも連れてくれば、オレだって優雅に陽気なアフタヌーンを楽しんでたってのに……。



言ってても仕方ないから、溜息を飲み込んで歩きだす。ここら辺はそう広くもないから、ジャパンエリアはすぐに抜けられる。

そっからあとはオレの知ったこっちゃ無い。標識なり、バスに乗るなりして勝手に帰ってもらうしかない。

それに、こいつが居なくなればイタリアの奴らが探しに来てるだろうから、たぶん大丈夫。




背中越しにデモーニオにそう説明してやる。ちらりと見ると、軽く俯いてちゃんと着いてきていた。





──…可哀相な奴、





何でかそう思った。そう思うと、不思議と悲しくなった。

悲しくなったことなんか最近滅多になくて──まぁ、強いて言えば、影山に二流とか何とか言われたときに近い感情があったが。

自分のことじゃ悲しくなんかならないのに、他人にばかりそんな思いを抱くオレは随分なお人好しじゃないか?









不意に背後の足音が止む。

「…?おい、何してんだよ……」

「……」



視線の先には、駄菓子屋。こんなところに駄菓子屋なんかあったのか?つーか、何のために?

よほど珍しいのか、デモーニオは駄菓子屋を見つめたまま動こうとしない。


……めんどくさいことになった。

舌打ちを一つして、オレは駄菓子屋に入る。店の中は古くさい匂いがして、懐かしくて、少しだけ胸が締め付けられた。

辺りを見渡して、適当に駄菓子を2つ3つ引っ掴んで、昭和の匂いのするオバチャンに手渡した。オレの財布から100円玉が一つ、逃げていった。



「おら。」

「……ぇ、」



一連の動きをぼんやり眺めていたデモーニオは、戸惑いながらもオレから駄菓子の袋を受け取る。


「ボーッとすんな!…行くぞ。」


暫く袋を不思議そうに眺めていた奴は、慌ててまたオレのあとを黙って付いてきた。



駄菓子屋に、バナナ味のでかい飴玉が売ってたから買ってみた。口に入れたが、やっぱり本物がオレは好い。宿舎に帰ったらそっちを食べよう。





ジャパンエリアの入り口に着くまで、オレもデモーニオも一言も喋らなかった。

ただ、バカみたいに青い空がバカみたいに口を開けているだけで、オレ達の間にあるものはそれ以外でもそれ以上でも無い。









「──デモーニオ!!」


案の定、エリアの入り口にはフィディオが居て。デモーニオは嬉しそうにマントを揺らして駆け寄っていった。


──やっと平和になる。


さっき飲み込んだ溜息を、少しだけ重さを持った悲しみと共に吐き出す。





「──不動!」





さぁ帰るぞ、と踵を返すオレに背後から声。振り返ると、デモーニオが嬉しそうに手を振っていた。















オレは、何であいつのことを可哀相な奴だと思ったんだろう?あいつは鬼道に追い付いて、そして超えるために必死で必死で必死で生きてきただけで。

色々あったにしろ、結局は影山にもイタリアメンバーにも愛されて。


オレは、



オレは、あいつを可哀相だと同情したんじゃない。


多分、

自分が可哀相だと勝手に被害妄想を並べたかっただけなんだ。











フィディオが軽くこちらを睨んでいる。


──それが、何だってんだ?



自分のことや他人のことを可哀相だなんて思うのは、オレには極稀な話。だから、単なる気紛れの尻尾みたいなもんだろう。


それは、青空の気紛れさと似たようなもので、きっと明日には忘れ去られて風に吹かれて消えていくに違いない。





──それでも、










オレは、右手を軽く上げてやる。空が馬鹿に青い。













──それでも、あいつの幸せを願わずには居られないから。










願う

(…帰ってバナナでも食うかな)





+++++++++

i love×××!!様提出作品。

色々捏造半端無い←
取り敢えず、影山っ子には皆幸せになってもらいたい。



素敵企画有難うございました!


100913 銀璽



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