いつかいつか、絶対にその背中を捕まえて引き倒して踏み躙ってズタズタにしてやるんだと心に誓っていた。

俺の大事なあの方が、あんなに悲しそうな苦しそうな張り裂けそうな泣き出しそうな顔をするのは奴のせいなんだ。サングラスの闇の中に隠れてしまった瞳が見ているのは俺、じゃない。

俺の向こう側に、奴を見ている。あの方は俺を通して奴の事ばかり見ている。俺はそれを知ってる。知っていても、知らない振りをしてる。見えていても、見えない振りをしている。俺はただただ呼吸がしたくて仕様がなかっただけなんだ。

こんなに小さなボールを蹴ってコートを走り回れば、いつかいつか届くと信じていたんだ。誉め言葉も称賛も栄誉も全部捨てちゃったって構わなかったんだ。そんなものは溝鼠より嫌らしくて汚らしいんだと、あの方が教えてくれた。

俺はただ、呼吸をしたかっただけなんだ。酸素を吸うことを渇望して渇望して止まなかった。誰よりも強く強く、強く、なる。絶対的な勝利、勝利を勝ち取る。

深紅の布がひらひら舞うのを何回も何回も睨み付けていた。俺の上を行くあいつ。俺の先を行くあいつ。あの方を捨てていったあいつ。俺じゃない、あいつ。






でも背中を捕まえて引き倒して踏み躙ってズタズタになど出来なかった。それどころか、俺にとって呼吸器に等しかったボールは軽々と忌々しいあいつに着いていってしまった。俺はどうすれば良いのか分からず、敗北という死亡宣告を拒み続けた。

俺は、ただ呼吸がしたかっただけなのに。俺は、ただ貴方の為に呼吸を継続したかっただけなのに。










あの方は、糸がぷっつり切れた様に消えた。死んだ。居なくなった。俺はもう、あの方に会うこともない。俺はもう、呼吸をすることもない。貴方の瞳の向こうに、一度だけでも、俺が映ってくれれば良かったのに。

何故返事をしてくれないのですか。何故指図してくれないのですか。俺は只の道具でも構わなかったのに、何故、どうして。


糸が切れた絡繰り人形は、踊る術を知らないまま、後は息を止めるだけ。







舞葬

(踊り疲れて眠りに堕ちた、)







Thx:funeral






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