(※コロ豪鬼)


突然降りだした雨だった。


まぁ6月だから──梅雨の時期だから雨が降ってきたって仕方ない。いつもは鞄に入れている折り畳みの傘を何故だか今日は忘れた。

今朝はあんなに晴れていたのに、練習が終わるまでは何とか持ちこたえてくれていたのに──…

そう思いながら雨の中を走る俺を余所に、雨脚は強くなるばかり。制服の上に遠慮もなく染みを作っていく。


流石に、まずい。


全身ずぶ濡れになった頃、漸く俺は雨宿りをする決心をする。病院に寄って行くつもりだったが、一旦は家に帰ったほうが良さそうだ。


適当に屋根のある店を選んで、駆け込んだ。視界の端に人影を捕えて、同じ不運な境遇に出合う奴も居たのかと可笑しくなった。


「──…お前、」
「?」


聞き覚えのある声に振り返る。


「…鬼道じゃないか。」
「…ふん、貴様かクズ。」


そっちから声を掛けてきたくせに、と言うと只の気紛れだとそっぽを向いてしまった。相変わらず不器用な奴だ、とは喉迄出かけたが口にはせず、鬼道の横に立つ。


「何故貴様は俺の横に立つんだ?」
「いけなかったか?…あそこだと、雨が吹き込んでくるからな。」


鬼道はこちらに一瞥をくれただけで、あとは何も言わなかった。つまりは、此処で雨をやり過ごしても良いという事だと勝手に解釈して、暫く並んで立っていた。










それからいくら待っても、雨は止むどころか強くなるばかりで。なかなか店先から引き上げることは出来なかった。

段々つまらなくなったので、鬼道に話し掛けてみることにした。


「…鬼道。」
「…」
「何でお前が此処に居るんだ?」
「…」
「言えない事情でもあるのか?」
「貴様はよく喋るな。」
「そういう訳でも無いと思うが。」


鬼道は相変わらず俺を見ようとはせず、腕を組んだままそぼ濡れていく街を眺めている。


「貴様の様なクズには関係無い。」
「随分と酷い言い方だな。」
「…敵である俺に気安く話し掛ける貴様の意図が全く分からないが?」
「敵?」


あぁ、そういえばそうだったかもなと頷くと盛大な溜息を吐かれた。


「貴様にしろ円堂にしろ…全く意味が分からん。」
「俺も鬼道のことはよく分からない。」


まぁ所詮、俺もお前も円堂も他人同士だ。その言葉には鬼道も共感を持ってくれたのか、こちらを振り向いた。


「どうかしたか?」
「…クズの割りには上出来だ。」


余程気に入ってもらえたのか、僅かに微笑んでさえいた様に見える。




ふと、背後を振り返ると、店のショーウインドウに綺麗なウェディングドレスが掛かっていた。取り敢えず雨から逃れたい一心で駆け込んだから、何の店なのか全く気にしていなかった。


──6月。ジューンブライドだ。



純白のドレスに身を包んだ花嫁は永遠の幸せを夢見て───…



僅かにライトアップされたそれは薄暗い雨の雰囲気と相まって酷く美しかった。

惚けた様に見惚れる俺を余所に、鬼道はただ前を見つめてつまらなさそうにしている。




「──…似合うかもな。」
「何がだ?」
「花嫁役。」


馬鹿か貴様は、黙れクズ!と怒号が飛んできたのは言うまでもないが、鬼道が花嫁なら俺は尻に敷かれてやっても良いと思った。当然、口にはしない。




街はまだ雨に濡れて、鈍く重く息づいていた。



居心地が悪そうに雨を見つめる鬼道の耳がこっそり朱に染まっているのを知っているのは、今この瞬間、俺だけだろう。



June Bride





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おれたちのきせき様提出です!

コロ豪鬼すみません…!大好きだけど慣 れ な い!←



素敵企画有難うございました!


110104  銀璽



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