※一ノ瀬君の手術が失敗してしまったら設定※





拝啓 貴方へ

この手紙を読んでいるということは、きっと俺はもうこの世には居ない。そして多分、最期の一瞬に俺が思い出すのは、きっと、皆で──4人で楽しく遊んでいた鮮やかな日々ではなく、貴方と仲間と日本でサッカーボールを追い掛けてきた日々でもなく、アメリカで世界一を目指して泥まみれになった日々でもないのだろう。

今此処からは青空が見えていて、昔よく遊び回っていた公園からは、子供の声がする。多分、俺達みたいにサッカーボールばかり見ている奴も沢山居るに違いないな。野球と同じくらい、こっちでもサッカーが人気になると良いって、思わないか?それは、俺の夢でもあったんだけど。俺じゃあ、もう駄目なんだ。俺には時間が無い。今からもう一度サッカーを始める時間が、俺には残っていないんだ。

俺は色々、散々、貴方に我が儘ばかり言ってきた。でも、これが人生最大、最期のお願いになるだろうから、どうか、どうか聞いてほしい。

俺の代わりに、俺の夢を叶えてほしい。

多分、貴方は、自分には出来ないと首を振る。でも俺は、そうは思えないんだ。今までずっと一緒に居た俺には分かる。俺なんかより、貴方はずっと冷静だったし、ずっとずっと強かった。俺がちゃんと前を向いて歩けていたのも貴方のおかげだったんだ。

だから、俺の最期の我儘。聞いてもらえないかな?


俺がこんなこと書いたら、苦笑いされるのかもな。今まで真面目に、本気で夢の話なんかしたことなかったんじゃないかな。でも、これが俺の本当の夢なんだ。人生すべてをかけても良いって思えるぐらいの、夢なんだ。だから、どうか。


もう一度言う。この手紙が貴方に届く頃には、俺はこの世には居ないのだろう。

それでも、俺は何故だか怖いと思わないんだ。不思議な話だよ。今夜も俺はいつもどおりの時間に眠りに堕ちて、また楽しかったあの頃の夢を見る。俺にとって、問題なのは今じゃなくて、残してきた昨日達なんだ。





散々書いてきたけど、本当に言いたかったことは一つ。

俺は、貴方を愛している。

この言葉を、直接伝えられたらどんなに幸せだっただろう。もう俺には時間が無い。今になって気付くなんて──…




──重々しく書いてみたんだけど気に入ってもらえたかな?俺らしくないって?分かってるよ、本当、最近どうかしているよ。今すごくサッカーやりたくてさ、朝からずっと試合のビデオとか見てるけど、やっぱりサッカーって良いな。

まだ生きていたいけど、でも、凄く幸せな日々を送れたから満足してる。不謹慎かもしれないけど、今死んだって平気だよ。




この手紙は、手術が成功したら捨てるつもり。だから、貴方が読まないことを祈りたい。読んでしまったときは、気にしないでほしいな。俺が貴方より先に、試合終了してしまっただけの話。別にどうってことない事だ。でも、最期に二人でまたサッカーしたかったな。





それじゃあ、今からまたFFIのビデオでも見るかな。

さよなら。
幸せに、どうか、どうか、幸せに。




一ノ瀬



















こんな手紙が、あいつの葬儀の次の日に届いた。俺は何の気なしに読んで、返事を書こうとペンを握って、初めて自分が泣いていることに気付いた。

あいつは昔から無理ばかりする奴だった。あいつの為に、何度駄目だったら、と策を考えただろう。だから、今回の手術は駄目でも泣くもんかって思ってた。あいつを笑って見送ってやるんだって、決めてた。


「──反則…」


それなのに、あいつは怖くないだなんて書いていた。あいつの愛したサッカー、あいつの愛した仲間たちが居る此処を去ることが怖くないだなんて、とんだ強がりを書いたんだ。涙でインクを滲ませて、怖くないだなんてよくも──…



窓から爽やかな風が入ってくる。俺は、真っ白な便箋を折って紙飛行機を作って空に飛ばした。


それは、真っすぐに青空を切り取って、何時しか見えなくなっていた。


多分、あの便箋に俺が託した思いはあいつに届いただろう。最後の最期まで、強がっていた、君に。





『俺も、貴方を、愛してる。』












++++++

確かにあの日、君はいた。様提出。


一土が最近好きすぎる……!


一ノ瀬君が無事戻ることを祈って!


101123 銀璽




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