「──だから、待ってって言ってるじゃない!」 「時間が無い。」 時間が無いからって、レディの腕を引っ張って行くことないだろうに! そうわめく私を無視して、鬼道は振り返りもせずに走る。真っ赤なマントがヒラヒラ揺れた。 ──…大体、 イタリアの……フィ…何とかって人が日本にやってくるからって、何故私が試合を見に行かなきゃいけないんだ。FFIの試合なら、サッカー好きな弟に付き合わされて腐るほど見たし、鬼道の活躍だって見た。 鬼道は頭も良くて、帝国にいた頃はキャプテンだったし、私も宿題とか宿題とか宿題とか、散々お世話にはなりましたけ、ど! だからってこの状況は酷い。運動不足の私が、鬼道の全力についていけるはずがあろうか………反語。 「、きど、も、ちょい、ゆっくり……」 「すぐにつく。」 その台詞何回目だったかな?私は引き摺られるように鬼道に付いていくしかなかった。 「遅いぞ鬼道!」 「すまない。」 いやいや、私には謝らないのかな鬼道クン!ぜぇぜぇと肩で息をする私を余所に鬼道は平然としている。畜生、体力まで超次元かよ! 「──…その子、鬼道の彼女?」 イナズマジャパンのユニフォームじゃなくて……確かイタリアの…青いユニフォームを着た人が私を見つめる。 うわぁ、外人!待って、見たことあるぞぅ…そう!例のフィ…なんちゃら君だ! 「すごくキュートじゃないか!」 と、キラキラ効果音が付きそうな笑顔を向けられたが、 「ぇえと……」 どこから突っ込もうかなと迷っているうちに、鬼道が先に 「オレの彼女だからな。」 とか何とかほざくものだから、喉迄出掛かった言葉が行き場を失って空気に霧散した。違いますよ?!と慌てて手を振る頃には、円堂がサッカーしようぜ!なんて言うものだから、既に私は河川敷のベンチに取り残された後だった。 遠くで鬼道が振り返って、ニヤリと笑う。くそぅ、私をだしに使いやがったな!覚えとけよ、後でハーゲンダッツ奢らせてやるんだから……!地団駄を踏むと同時に、試合が始まってしまった。仕方なく、おとなしく観戦。 やっぱり、スポーツは生で見るほうがそりゃあ迫力があってすごい訳で。 しかも超次元サッカー。 ジャパンだけじゃなくて、フィ…なんちゃら君も凄かった。そりゃもう筆舌に尽くしがたいほどに凄かった。 「───鬼道!」 言わずもがな、この男も負けず劣らず凄かった。機敏に動いては、ボールをあっという間に奪ってしまう。帝国にいた頃よりも更に凄くなっていた。 ゴール前、ノーマーク。 一瞬、鬼道がこっちを見て、ニヤリとまた笑った。あの笑いは、奴が何かを企んでいるときだ。 後ろから、佐久間とモヒカンの…不動だったか…が走ってくる。新しい必殺技かな? 「皇帝ペンギン3号!」 ん?3号?2号は知ってるけど、3号は初めて見た。凄いな、威力が半端ない。キーパーの可愛い顔をした男の子が吹っ飛ばされた。可哀想に、御愁傷様。 「試合終了だ!」 時間計ってたの…?円堂がまた叫んで、ささやかな超次元サッカー試合は終了した。 「すまなかったな。」 「本当に思ってんの?」 「…返してくるか、コレ?」 あぁすみませんでした!ハーゲンダッツが二つ入った袋を横から強奪して謝る。 「相変わらずだな、お前は。」 「お互い様でしょ!」 強引なところとか、全然昔と変わってなかった。何だか安心したような、物足りないような。 「で、どうだった?」 「何が?」 「試合だ。」 「あぁ…凄かったね。」 つーか、昔から鬼道は凄いじゃん!とハーゲンダッツの蓋を開けながら答える。 河川敷の向こうの方に夕日が沈んで、綺麗なコントラストを描いていた。 「──惚れたか?」 「ん。………へ!?」 スプーンを口にくわえたまま、勢い余って返事をしてしまった。待て待て待て、落ち着け、私の心臓!そんなに脈打ったら破裂するぞ…! 「あ……の、鬼道…」 「何だ?」 何だじゃない、何だじゃ。今のはどういう意味だったの?と聞きたいけど、何だか聞けなかった。誤魔化すために2倍速でハーゲンダッツを頬張った。くっ…もっと味わいたかった。これで少しは体温下がるかな?とか淡い期待。 「──おい、」 「むぐ。」 「アイス付いてるぞ。」 「む、」 どこですかアイス!!慌てて頬を探った右手を、そのまま捕まれる。思わず息を呑んだ。 「──動くなよ?」 ズルいじゃないか。 あんなに凄いサッカー見せ付けられた後に、こんなに綺麗な深紅の目をして、そんなこと言うなんて。 畜生、覚えてろよ!と心の中で叫んで、夕日に溶けてしまえば良いのにとか思った。 超絶技巧を披露して +++++++++ 鬼道さんキャラ崩壊中。 拝啓様提出。 素敵企画有難うございました! 101024 銀璽 |