※白石は大阪の高校生、謙也は東京の高校生




携帯を開いては閉じ、開いては閉じを朝から、否、昨晩日づけが変わってから何度も繰り返している。けれど、何回開いても待ち焦がれている着信は一向に来る気配を見せない。ベッドの上ではあと本日何度目かのため息をつき、そのままごろりと体を横たえた。

昨年までは、ちゃんとこの日には日づけが変わったと同時にメールなり電話なりをしてくれていた。それなのになんで今年は音沙汰ないのだろう。携帯を両手で握りしめてぼんやり思う。連絡も入れられないくらい東京での生活が忙しいのか。それとも、あまり考えたくはないが、忘れているのか。もし本当にそうだったらすごく悲しいし、寂しい。

ふと床に目を落とすとベッド脇の紙袋が視界に映った。大きめの紙袋に入っているのは今日友人たちからもらった誕生日プレゼントだ。ユウジも小春も小石川も銀も、財前に金ちゃんまで、みんな高校も違うのに夕方にわざわざ祝いに来てくれたのだ。みんな3年経っても相も変わらない。ユウジは小春にべったりで金ちゃんは元気いっぱいで財前は仏頂面で、そんな連中を小石川と銀と俺は笑って眺めて。昔に戻ったみたいだと思って懐かしかった。プレゼントも確かに嬉しかったけれど、何より会いに来てくれたことが本当に嬉しかった。ちなみに千歳からは昨日の朝ポストにプレゼントとメッセージカードが贈られていた。1日日づけを間違えるあたり、あいつも変わらず元気でやっているのだと思う。

こうして18回目の誕生日のことを思い返せば、どうしても最後に頭に引っ掛かるのはたった一人のこと。再度携帯を開いてみるがやっぱり着信も新着メールの受信もなかった。そして、ディスプレイに記された時間は23時54分。もう今年の4月14日も残り6分ほどで終わってしまう。



「…寝るか」



一人きりの部屋でそう呟いて、俺は布団の中深くに潜り込んだ。ここまできて何もないんだ。きっとこれ以上待ったところで仕方がないのだろう。

脳裏で重たく渦を巻く落胆と失望とを振り払うために、俺は電灯を消して目をぎゅっと強く瞑った。忘れよう。もうこんな最悪な誕生日のことは忘れて寝てしまおう。なんて。思いながらも、きっと来年も再来年も、誕生日の度に今日のことを思い出してしまうんだろうな。

往生際悪くも暗がりの中で携帯を開き本日最後の時間確認をする。23時59分を視認したのとぴったり同じタイミング。手の中のそれが突然震えだした。びっくりして、息を飲む。

待って。待って。もうだめかと思っても、やっぱりギリギリまで待ち続けて。液晶に記された名前を見て、今の今まで重くて仕方なかった心臓が羽根が生えたように一気に軽くなった。



「も、もしもし!」

『白石?』

「お、おん…」

『…あれ、なんかあった?』

「え、なんで?」

『なんや珍しくキョドっとるやん』

「…そうでもないで?」

『そう?』



くすくすと鼓膜を震わす笑い声が擽ったくて、布団の中でもぞりと寝返りをうった。ごめんうそ、今めっちゃキョドっとる。動揺しとる。やってまさか連絡来るとは思っとらんかったから。そんな本音は心中だけで呟く。



『あっ、誕生日、』

「ん?」

『誕生日おめでとう、白石』

「…ありがとう、謙也」



照れ臭いのか電話越しに謙也のはにかみを感じて、俺もつられて笑う。やっぱり忘れないでいてくれた。東京と大阪。遠く離れてても、謙也は謙也だった。



「ずっと待っとった」

『うん?』

「謙也からのおめでとう」

『あー…すまんな遅なって。けど、今日の一番最後に言いたくて』

「なんで?」

『やって、毎年一番早う祝うより、たまには一番最後に祝う方が記憶に残るやろ?』

「…せやから遅かったんか」

『ちょっとしたサプライズやで』



「この時間まで待つのしんどかってんで」と言う謙也に、体内に抱えていたもやが綺麗に消え失せる。ということは俺はまんまと謙也の策略に嵌まったということか。きっと今、電話の向こうの謙也は歯を見せて笑っていることだろう。想像したら少し強ばっていた体の力がふっと抜けて、口角が自然と上がった。



「ほんま、一生忘れられへんわ」



ああ、よかった。今夜はよく眠れそうだ。俺はゆったりと目蓋を下ろして深く息づいた。




Happy birthday
Kuranosuke!!

'12.4.16/kazuha



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