※謙也2年、白石1年。学年捏造。


女子にも男子にも、小学生の頃から囲まれるのは慣れっこやった。おれは顔立ちが人よりも綺麗らしく嫌味になるかもしれへんけど勉強も運動も並み以上にできてしもたもんやから、好意を持って寄ってくるやつもぎょうさんおったし、反対にいけ好かん言うて束になって詰め寄ってくるやつもおった。多分、今おれの周りにおる連中は後者の方やと思う。


「自分ちょっとうまいからって、調子のってんのとちゃうか」

「先輩に媚び売っとんなや」


ベタな展開っちゅうか、漫画で見るようなセリフを浴びせられてまるで現実味がわかへんかった。大体、わざわざ練習中の貴重な休憩時間に普通呼び出しなんかせえへんやろ。連中の神経がおれには全然わからへん。あとついで言うと、連中はおれと同じテニス部で同級生やけれど、まだ入部してから日も浅いから名前もあやふやでわからへん。もうじき休憩も終わってまうやろうに、それまでにおれは解放してもらえるんやろか。

けど今までの経験上、こういうのは相手の気が済むまで言わせといた方が都合良く収まるもんや。そう考えて、おれは三人をじっと見据えたまんまひたすら黙っとった。


「おい、なんか喋れや」

「ビビっとるんか?」


そう言うてげらげら下品に笑いだした連中を、心底阿呆かと思った。気づかれんように注意して、小さくため息を吐き出す。

もう、面倒やから構わんといて欲しいのに。テニスかて、連中とは違うてこっちは経験者なんやからできて当たり前やろ。ただ普通にしとるだけやのに調子のっとるとか目障りとか。さすがに中学入ったらもうちょいマシなやつが増えるもんやとばかり思っとったけど、結局小学校んときとなんも変わらへん。ガキばっかなんや。

はあ、と今度は聞こえるようにわざとらしく息をひとつ吐いて、おれは諦めるように溢した。


「…別に君らに喋りたいことはないし、ええよ。言いたいこと全部言うたらええやん」

「はあ?なんやその態度」

「自分の状況把握しとんのかお前」

「うん、もうなんでもええから。…はよしてや」


彼らの目におれはどう映ったのか、それはおれの知り得ることやない。せやけど、少なくともいけ好かんやつとして映ったんは間違いやないみたいや。おれの言葉に連中の余裕そうな表情が一変して、視線もよりキツいものに変わる。


「馬鹿にしとるんか!」


真正面におった一人がそう叫んで、いきなりおれの体を突き飛ばした。突然のことにバランスを崩したおれは呆気なくそのまま後ろに倒れる。急いで手をついて立ち上がろうとしたものの、おれを突き飛ばしたやつが馬乗りになってきたため体を起こすことができひん。

襟をぐいっと力任せに引っ張られ、気づけば目の前におるやつは拳を構えて今まさに降り下ろさんとしとった。なんでこう、こういう人間は血の気が多いんか。おれは変に冷静な頭でそう思うて、殴られることを覚悟して目を閉じた。

しかし、


「ストップ」


急に前から連中のとは違う低めの声が聞こえて、不思議に思い目を開く。すると視界が捉えたのは、拳を振り上げたポーズのまんま固まる同級生の一人と、その後ろにそいつの上がった腕を掴んどる違う人が一人。


「殴ったらあかん」

「ひっ、」

「せ、せんぱい…」

「自分ら、テニス部退部したいんか?」


馬乗りになってきとるやつのせいで、その後ろにおる人の顔がよお見えへん。けど低く唸るようにそう嗜めたその人の声により、連中は躊躇いながらもどこかへ逃げていってしもた。一人取り残されたおれは地べたに倒れたまま、何が起こったんかわからへんで呆けとる。そんなおれの前にその知らない誰かがしゃがみこんだ。


「怪我、してへんか」


おれの顔を覗き込むその人と目が合う。濃紺色の透明感あるきれいな、大きな瞳。それを見た瞬間、いきなり世界がパンッと弾けて真っ白になった。同時に、ごっつい電流にビリビリと脳天から爪先を貫かれたような感覚に襲われる。どっくんどっくん言うて、心臓がありえへんくらい強くポンプ運動繰り返す。胸が張り裂けそうやと思った。頭ん中も、ぐわんと大きく揺れたんは多分、全身を駆け巡る血液が一気に滾って熱を帯びはじめたからや。

ああ、あかん。心臓はぜそうで、泣きそうで、吐きそう。
おれの第六感が叫んで止まへん。

この人が、この人が、


「…おーい、聞こえとる?」

「……き、です」

「うん?」

「好きです」

「…は?」


この人が好きやって、身体中が絶叫しとる。

思考は完全にストップしてまっとるもんやから、何も考えられへん。目を剥く彼におれは間髪入れず抱きつく。体温に触れた途端、わけもわからず涙が少し滲んだ。







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