あ、また。

今日はこれでもう七回目。昨日よりもたくさん合ってる気がするなあなんて思いながら、俺は白米を箸で口に運んだ。咀嚼しながら再び謙也さんに視線を寄越すと、またぱちりと目が合った。あ、これで八回目や。


「今日は、あったかいなあ」

「ほうですね」


わざとらしくそう言って、空を仰いだ謙也さんの頬はピンク色に染まっていた。その横顔を見つめて、卵焼きをつつく。謙也さんは誤魔化すのが下手くそだとよく思う。

最近、謙也さんとは頻繁に目が合った。意図的に合わせているのではなくて、あっと気づいたときには視線がぶつかっているのである。けれど、目は合うがお互いに別にこれといって話したいことがあるわけでもないので、いつもすぐに視線を反らされるか苦笑いされるかして終わってしまう。謙也さんはなんでか俺をよく見ているようだった。俺に何か、言いたいことや気になることでもあるのだろうか。俺は、ある。言いたいことも、気になることもたくさんある。

好きなバンドはなんですか。何人家族なんですか。好きな季節はいつですか。好きなタイプはどんなですか。好きな人は、いますか。


「……なあ、財前?」

「なんすか」

「俺、なんかした、かな?」

「は?」


不安そうに眉を下げてそう聞いてきた謙也さんは、そのまま俯いてしまった。手に持ったあんパンをじいっと見つめて黙る謙也さんに、俺は返す言葉が見つからなかった。


「…なんで?」

「なんでって…なんか最近、財前よお俺んこと見てくるから、」

「え?」

「俺、なんかやらかしたんかなあ、と、」


しゅんと項垂れる謙也さんの頭のてっぺんの髪がそよそよと風に撫でられ揺れている。それをぼんやり見つめつつ、俺は予想外の言葉にただただ驚いていた。

本日の昼休憩時の屋上は、空がどんよりと重たい色の雲に覆われているためか、俺と謙也さんの貸し切り状態。二人が黙ると必然的に辺りはしんと静まり返って、聞こえる音と言えば校舎内の喧騒とお昼の放送で流されている誰のかも知らない邦楽だけだった。しばらくの沈黙の後で発した声は、かっこ悪くも少しばかり上擦ってしまった。


「見てたんは、謙也さんの方でしょ?」

「、え?」

「え?」


なんや。それって詰まるところ、謙也さんは俺が謙也さんのこと見とると思っとって、俺は謙也さんが俺んこと見とると思っとったっちゅうことなんやろか。うそやん。俺って謙也さんのこと見とったんやろか。

どうやら自分では気づかないうちに、俺の目は謙也さんを追いかけていたようだった。確かに、それなら近頃よく謙也さんと目が合っていたのも、俺からの熱い視線を謙也さんが気にしていたせいだと納得できる。俺は謙也さんが気になって仕方なくて、無意識に意識しすぎていたのかもしれない。


「…あー、なるほど」

「え?なにが?」

「いや…俺、ずっと謙也さんに言いたいことがあったんすわ」

「やっぱり…」


きっと謙也さんは、謙也さんが俺に何か良からぬことをして怒らせたから睨まれていたのだと、そんな風に考えているのだろう。肩を緊張させて不安げに瞳を揺らす謙也さんに、俺は目を細めた。


「謙也さんのことが知りたいんです。教えてください」

「…は、」

「好きなんすわ、俺」

「…はあ?」


俺の唐突な告白に、ぽかんと大きく口を開ける謙也さんの顔は、今まで見てきた中でも抜群のアホ面だった。その顔があんまり可笑しくて、耐えきれずに吹き出した瞬間、謙也さんはアホ面を耳までさあっと真っ赤に染め上げてもう一度「はあ!?」と大声で聞き返してきた。すっごい顔、おもしろ。


「うはは、謙也さん顔真っ赤や」

「な、なに笑てんねんお前!」

「せやかて、あんたがおもろい顔するから」

「おもろいとか言うなや!つか、状況的に笑うとこちゃうやろ…」

「なんで?」

「なんでって…す、すき、とか、」

「はい、すきですよ、謙也さんのこと」

「…それって、こくはく、やんな?」

「告白のつもりやけど?」


ことりと首を傾げ、弁当箱に最後に残ったアスパラベーコンを口の中に放った。謙也さんも赤い顔のままあーとかうーとか唸りながら、あんパンの最後の一欠片を食べきり、ごくんとそれを飲み込んだ。けれどもその後またあーだのうーだのと散々呻き続けたので、俺はそれが止むまでぼうっと空を眺めていた。今にも雨降りそうやけど、今日傘かばん中に入れてきたやろか。とか、そんなズレたことを考えながら。


「うーん…財前?」

「なんですか」

「ちょっと仕切り直させてくれ」

「は?」


謙也さんの言葉の意味がわからなくて、折っていた首を戻して彼を見た。そうしたらいつの間にか胡座ではなく正座をし、居住まいを正した謙也さんが仰々しい趣で正面にいて、俺はまた首を捻った。


「俺も財前のこと、もっと知りたかってん」

「…え?」

「好き、です」


謙也さんが必死に吐き出した短いその言葉に、今度は俺が面白い顔を見せる番だった。




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