※大人で同棲
※R15くらい



「謙也さんのお帰りやでえー」



玄関から高らかな声が響いてきたのにはっとして、俺はキャスター付のオフィスチェアから素早く立ち上がった。そしてパソコンをスリープモードに切り替えて閉じ、急いで布団の中に潜り込んだ。今の一連の動作の手際の良さと言ったら、きっとスピードスピードと口癖のように繰り返すあの人もびっくりな速さだったと思う。息を潜め、目を閉じる。すると、丁度タイミング良くバアンッ、と派手にこの部屋の戸が開かれた音がした。(もうちょい遠慮せんかい。)



「ひかるうー、たらいまあ」



馬鹿でかい呂律の回っていない声にも反応をしないでひたすらじっとしていた。とたとたた、と覚束ない足音がこちらに向かって来るのに耳を澄ませながらも、ただじっとしていた。ギシリ。転がっていたベッドが沈み、体の上にずっしりとした重みを感じる。うわ、乗っかってきやがった。ちょ、ほっぺつつくなやこのアホスター。



「ひかるちゃあん、ねてんの?」

「…」

「なあなあ、ひーかーる、いとしの謙也さんが帰ってきたでえ」



そんなん知らんがな、と口には出さずにツッコミを入れ、寝返りをうつフリをして布団を被り直し顔を枕に埋める。そんな俺にはお構い無しの謙也さんは、酔ったテンションのまま俺に跨がった状態でバシバシと布団を叩く、叩く、叩く。その上肩まで揺すられるから頭が布団の中でぐらぐら揺れる。あーもー見ればわかるやろ、どっからどう見ても寝とるやんか俺。実際寝てへんけど。やって、酔っぱらった謙也さんの相手すんの、めんどくさいんやもん、臭いししつこいしウザイし。そんななってもうた謙也さんとは関わらんと寝てまった方が楽やっちゅうことはもう長年の付き合いで心得とる。今日かてほんまは飲んで来るの知っとったから早く寝てまおー思っとったんやけど、ネサフ始めたら終われんくなってまって結局帰ってくる前に寝られへんかったわけで。財前光、一生の不覚や。



「あら、ほんまにねとんのか」

「…」

「…しゃあないやっちゃなあ」



普通起きてでむかえるやろー、とかなんとか、俺の上でぶつぶつと呟く謙也さんは一向に退く気配がない。せやから知らんってば。重いんやからはよ降りろ。ほんま酔うと面倒くさいから嫌やわ、この人。

寝たフリを決め込んでいる以上、いろいろと突っ込みたいものの声が出せないものだから焦れったくて堪らない。一刻も早く俺の上から退いてください。ほんで大人しく布団に入って寝てまってください。そう祈って懸命に目を瞑っていると、不意に上からの声が止んだことに気づいた。酔っぱらいが黙ったことによりしん、と凪いだ空気に妙な違和感を感じた。

え、なんや、もしかして俺に乗っかったまま寝とるとか?おいおいおい、冗談やろ。寝るんならせめて隣に転がってくださいお願いします。

とりあえず状況確認をしようと目を開けて、そろそろと布団越しに謙也さんを盗み見ようと試みた、丁度その時だ、



「…んっ、あ…」



突然控え目で甘い声が空気を震わせて、覚えず心臓がドキッと跳び跳ねた。

…待って待って。なんなん、これ。ちょっと、ねえ、今嫌な予感がぶわっと…いや待て、落ち着け俺。一旦落ち着け。冷静になるんや財前光。今の声はきっとそう、聞き間違いか空耳や。ねえ謙也さん、そうなんですよね。ほんないくら謙也さんがアホで空気読めへんからって疑ってええことと悪いことがあるやんな。全くもう、恥を知れや、俺。酔っぱらっとるからって謙也さんがそんなことするはずないやんけ。そんな、人様の上で俺が想像しとるようなことはせえへん。うん、多分、俺のかんちが…



「ふ、ん、ひかるぅ…」



…もう勘弁してください。

ただの勘違いであることを願っていたが、どうやら勘違いではなかったみたいだ。俺の必死の祈りは神へは届かなかった。ジジ、とジッパーの開く音がしたかと思えば次には布擦れの音、そして極めつけにはくちゅりと水気を孕んだ音が続いた。

サービス精神よろしく謙也さんは現在、間違いなく寝ている俺の上で、俺の名前を呼びながら一人で致しているようである。

なんで今、なんでそこで。そんな疑問がぐるぐると頭で回るも、鼓膜に響く生々しい粘着質な音とか細く吐息混ざりの喘ぎに、沸々と体のどこかが煮えだしたのを感じる。心拍も次第に速まっていくのが痛いほどわかった。思春期でもあるまいし、ええ年してこんな音だけに興奮するとか、ダサい。ここは普通冷めるべきとこやろ、引くべきとこやろ。人の上でオナるとかほんま謙也さんあり得へん、ないわあ。…それにあれや、こんなんやっすいAVの音だけ聞いとると思えば凌げんこともないやろ。



「んあ、ひか、ひかる」

「…」

「ん、ひかる、すきやあ…っ」

「…っ、」



…いやいや、冷めるとか引くとか、そんなん無理な話っすわ。



「…謙也さんのアホンダラ」

「ん…?ひか、…っうわ!」



上半身を起こした俺は謙也さんの腕を捕まえ、性急にその場に組み敷いた。バフッと布団に背中を埋めた謙也さんはパチパチと瞬きを繰り返して俺を見つめていた。俺はそんな謙也さんの剥き出しの下半身に手を伸ばし、何の躊躇いもなく湿ったそれを強く握り込む。



「っあ!な、なんで…っ」

「なんでもくそもあらへんっすわ、このド変態」

「ひあ…あ、あかっ、んんッ!」

「普通寝とる人に乗っかってオナニーなんかせえへんと思うんですけど」

「んっ、ん、はぁっ」



もう既に完勃ちしている謙也さんのものを強くしごいてやる。酒が入っているせいか謙也さんの性器はすごく熱くて、しかも体も敏感に反応を示す。ビクッ、ビクッと震える体も、真っ赤な頬も、とろりと溶け落ちそうな濡れた瞳も、艶っぽい声も、いつもの数倍色っぽく見えて抜きながらも思わず唾を飲んだ。



「やっあ、も、あかんっ」

「ええですよ、出しても」



耳を甘噛みして低く囁く。ついでに擦る手のスピードも速めれば先走りでぐちゃぐちゃに濡れているものからはじゅぷじゅぷといやらしい音が立ち、手の中で硬度を増して今にも弾けそうなくらいに膨らんでいった。亀頭を指で弾くと一際高く鳴いた謙也さん。と同時に、ドクッと強く脈をうった謙也さんのものは盛大に俺の手の中に精液を吐き出した。



「あふっ、ん、う」

「…いっぱい出しましたね」

「ん、きもちえかった…」



はぁはぁと肩で息をする謙也さんは目を細めて、今にもとろんと溶け落ちそうな表情でふにゃふにゃと笑う。

酒が入った謙也さんは嫌や。息は臭いし、面倒やし、どうせ明日になったら記憶飛んでんのやろうし。でも一番嫌なんは、いつもの謙也さんらしさが全くなくなってまうところ。普段の謙也さんは明るくて男気があるけどとんだヘタレで、年下やけど余裕かまして減らず口もバンバン叩ける。せやけど酔った謙也さんはなんちゅうか、心臓に悪い。いつもは微塵も感じひん色気がむんむんで俺は翻弄されてばっかで、余裕なくなる。やから嫌や。でも謙也さんは謙也さんに変わりないから゛イヤ゛やけど゛キライ゛ではない、もちろん。



「…俺寝たかったんすけど」

「えへへ、すまん、つい」

「つい、やあらへんわ」

「やって光の寝顔見とったら可愛えなって」

「…可愛えのはどっちやねん」

「んっ、ん」



緩く弧を描く真っ赤な唇に深い口づけをした。滑り込ませた舌先で謙也さんの舌先を探り当て擦り合わせる。角度を変えようと離す都度漏れた互いの熱い吐息が至近距離で絡まって、ひどく鳥肌が立つ。送られる唾液と一緒に舌を強く吸い上げると謙也さんはビクン、と跳ねて、でももっとと言うみたいに熱いそれを差し出してきて。ああもうせやから、そういう反応されると余裕なくなるんですってば。



「んっ、は、あ」

「は、謙也さん酒臭い」

「すまんなあ」

「嫌です、許したらん」

「ええ?」

「起こした責任、ちゃんととってもらわんと困ります」



そう言って指先で謙也さんの太ももを撫でると、ひ、とか細い悲鳴が鼓膜を震わせた。酒のにおいと謙也さんの熱く火照った顔に酔ってしまいそうで、だけどそれもいいかもと思うと口角が吊り上がった。まだまだ今夜は長い。




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