「昼休み食堂で待っとる」



確か2限が終わるの頃だったと思う。ポケットの中で携帯が震えて、壇上で黒板に英文を書きながらペラペラと喋る英語教師に気づかれないようにそれを開いて見てみるとそこに映されたのは部長からのメールだった。連絡事があるとき以外は滅多にメールなんてしてこない、部長からのメール。何故いきなり呼び出されたかは大体見当がついていたので、俺は携帯を閉じてポケットに捩じ込んでから誰にも聞かれないように小さくため息をついた。

午前中の授業が終わり弁当を持って食堂に行くと隅の方のテーブルに部長がいて、俺に気づくと彼は微笑んで手招きをしてきた。



「すまんな、いきなり呼び出して」

「いえ、大丈夫です」



申し訳なさそうに苦笑する部長を見ながら椅子を引いて腰をかけ、あらかじめ自販機で買っていた紙パックのフルーツジュースにストローをさして口に含む。それの中身を一口二口口に流し込んだところで部長がテーブルに肘をつき「財前」と呼んだので、俺はストローから口を離して部長を見た。



「なんで呼ばれたか、自分わかる?」

「昨日授業サボったからっすか?」

「…またサボったんか」

「サボりました」

「ほんまにお前は…って、ちゃうちゃう、そのことやない」

「違うんですか?」

「サボりも確かにあかんけど、それやない」

「はあ。ほななんなんですか」



そう問うと部長は少しだけ考えるような素振りをしてから短く息を吐き出した。



「お前、謙也に何言うたんや」



予想的中。

部長は鋭い視線で正面から俺を見てくる。さすがに凄い迫力だ。そんな部長に圧倒されそうになりながら俺は内心やっぱりなと思った。昨日、昼に謙也さんと会ったときに彼が見せた動揺は部活の時まで続いていた。俺をあからさまに避けようとしていたし、ダブルスの練習の時もいち早く部長を捕まえて組んでいたし、話しかけようと近づくとそそくさと逃げていく。そんな彼に敏感な部長は俺と謙也さんとの間に何かがあったことを察したのだろう。だから、俺は今この場に呼ばれたのだ。



「昨日からアイツ可笑しいねん。お前の名前出すとやたら動揺して、せやけど財前に何か言われたんかって聞いてもだんまりやし」



食器がガチャガチャと鳴る音やガヤガヤと周囲から響く喧騒の中で部長の声だけがやけにクリアに鼓膜を震わせた。真剣な表情で真正面の俺をじっと見つめてくる部長の目から俺は目を反らそうとはしなかった。

さて、言うべきか、言わないべきか。



「…喧嘩、したんですわ、少し」

「喧嘩?」

「喧嘩言うても殴り合いとかやなくて口喧嘩ですけど」



結局、本当のことを言おうとして、やめた。言ったってどうせ何にもならないし変に詮索されるのも面倒だった。それに何より謙也さんが部長に頑なに言わなかったってことは多分、言いたくないのだろう。だったら別に黙っていればいいかなと思ったまでだった。けれど、というかやっぱり俺が言った言葉に納得がいかなかったのか部長は眉間に皺を寄せて「ふうん」と小さく呟いた。



「…まあ、そうならそうではよ仲直りしいや」

「仲直り、ねえ」



この場合の仲直りとは一体何を意味するのだろうか。謙也さんが折れることか、それとも俺が謙也さんを諦めることなのか。まあどちらにしても早期解決は望めないだろうなとぼんやり思った。



「もしかしたら長引くかもしれません」

「え?」

「譲れないもんがあるんですわ。俺にも、謙也さんにも」



それだけ言って持参した弁当をテーブルの上に広げると、部長は未だに腑に落ちないような表情でただ黙って俺を見ていた。





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