翌日のお昼の時間に屋上へ行くといつもならばそこにいるはずの謙也さんはいなくて、代わりにどこまでも広がる空ばかりが目に飛び込んできた。そこで教室に戻るのもなんだか癪だったので、そのまま適当に腰を下ろして手に提げていたコンビニの袋からお茶のペットボトルを取り出す。それのキャップを開けて中の液体を口に含み、喉を潤してから俺ははぁと息を吐いた。

昨日の此処での出来事を思い返してみるけれど、いまいち実感がわかなかった。謙也さんは俺が嫌いと言ったけれど、それじゃあ今まではどうだったのだろう。いつも無駄に明るく話しかけてきたり、二人でダブルスも組んで同じコートでテニスをしたり、たまに一緒に帰ったり屋上で一緒に昼休みを過ごしたり。そうしていた時間にも、彼は心の中では俺のことを嫌い続けていたのだろうか。もしそうだとしたら彼は実はかなり器用な人だということになる。だって俺の知っている謙也さんはいつも笑っていたから。隣で優しく微笑んでくれていたから。でも、もし謙也さんが俺のことを本当に嫌いだったのであれば、これまで俺が関わってきた「謙也さん」は偽者だったということになる。あの笑顔も、言葉も、優しい眼差しも、嘘だったことになる。だけど…



「…んー」



最初から俺のことが嫌いだったなら、普通あれだけ構ってくるだろうか。気にかけてくれたり、毎日一緒にお昼の時間を過ごしてくれたりするものなのだろうか。

そんなことを考えながら徐に空を見上げた。ぼんやりと流れる雲を見ながら考えるのは謙也さんのことばかり。今何処で誰とお昼を食べているのだろうとか昨日は何のテレビを見たのだろうとか今日の授業はどんなだったのだろうとか、そんなことがつらつらと頭に浮かんでくる。いつもだったら聞かなくても本人から全部喋ってくれるのに今日はそれもなくて、ただぼーっといろいろと想像を巡らせてみた。普段はうるさいと感じるそれも、なかったらなかったでなかなか退屈だ。

…っちゅうか今日の部活とかほんまどうすんねやろ。昨日はたまたま謙也さんが委員会とかで部活遅れて、俺も用事あって先帰ったから会わへんかってんけど。せやけど今日はきっと謙也さんも最初から部活おるやろうし俺も大会前やから行かなあかんし。これからの対応はまあ謙也さん次第やんな。あからさまに避けられたらまあそれはそれでしゃあないし、とりあえず普通に今まで通り接してくるなんてことはないやろうし。



「なんか…めんど」



いや、めんどくしたん俺なんやけど。こんなことになったん全部俺が告白なんかしたからあかんねんけど。けど、でもなんか、考えんのめっちゃめんどくなってきた。全面的に悪いんは俺やって重々承知はしとるけど、さあ。なんか、謙也さんめんどくさい。あかん、部活サボりたなってきた。サボったら絶対部長に怒られるけど。

ぐるぐると、悩むことが嫌いな俺がこれだけいろいろ考えるって言うだけで結構珍しいことであり、普段しない珍しいことをするというのは多少なりともやっぱり疲れるわけで。終いにはそのままごろりとコンクリートの床に転がり、次の授業サボろうかななんていうことをふと思った。授業をサボったところで別になんの意味もないけれど、なんだかいろいろと思いを巡らせていたらなにもかもが面倒くさくなってきてしまったのだから致し方ない。


まあ謙也さんには昨日きっぱりと「嫌い」って言われたが、だからって諦めようなんてこれっぽっちも思わないけれど。

最終的にそれだけを思い、俺は目蓋を閉じて横に寝返りをうった。




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