「好きです」
屋上での昼食中、そう告げると彼は無表情で、というか寧ろ少し怪訝な顔でくわえていた紙パックの青汁のストローを口から外して俺を見た。今彼が苦い顔をしているのは決して青汁のせいなんかじゃなくて、俺が発した言葉のせい。
「それはどういう意味で?」
「そのまんまっす」
「恋愛感情で?」
「そう」
淡々と尋ねてくる謙也さんの瞳がだんだんと冷えていく。すうっと、思わず寒気を催すような冷たく無機的な表情になる彼を見ながら手に持っているジャムパンを一口頬張ると、謙也さんは深々とため息を吐いた。
俺に告白されたのは、嫌だったのだろうか。迷惑だったのであろうか。それとも悪い冗談に取られただろうか。どちらにしても歓迎というリアクションには見えないので、俺の今の告白により謙也さんの気分を害してしまったのはどうやら間違いないようである。謙也さんは手に持っていた紙パックを床にことりと置くと、胡坐をかき直してから据えた目で俺を見た。
「で、お前は俺が好きで、どないしたいん」
「いや特にこれと言ってどうも…あ、キスはしたいかもです」
「キス一回したら嫌いになってくれるん?」
「、なんすかそれ」
「なあ、どうなん?」
俺の疑問には答えることなく相変わらずの無表情のまま身を乗り出してくる謙也さんに、俺は首を傾げる。嫌いになってくれるのかとは、一体どういう意味だ。謙也さんは俺に嫌って欲しいのだろうか。でも、そうだとしても何故、理由は。脳内にそんな自問をぽつぽつと浮かべては、俺は傾げていた首をさらにひねりたい気持ちになった。
「嫌いになって欲しいん?」
「なって、欲しい」
「なんでですか」
今度は俺も身を乗り出して謙也さんにズイッと顔を近寄らせると、彼は「近い」と呟きながら嫌そうな顔をして退く。この人はどうして俺に嫌って欲しいのだろう、どう考えても全然わからない。もう一度どうしてですか、と尋ねれば謙也さんは今まで一緒にいた中で見たこともないくらいのひやりとした目で俺をじっと見つめた。何にも奥に映さない、表面だけで反射するガラス玉みたいな瞳に映る俺は酷くぼやける。
「俺、お前のこと嫌いや」
視線が、言葉が、俺の体に突き刺さる。
謙也さんはそう言うと自らの荷物と青汁の紙パックを持って立ち上がり、屋上から出て行ってしまった。残された俺はと言うと、ただ何もない空気を見ながらこれからどうしたものかとぼんやり考えていた。