「本気なん?」ときょとんとした顔で尋ねた謙也さんに、酷く苛ついてムカついて、気づいたら薄い体を押し倒していた。



「ざ、いぜ」

「せやから言うたやないですか、好きって。謙也さん、信じてへんの?」

「ど、どいて」

「嫌や、退かん」



緩く抵抗しだした真下の謙也さんの肩をぎゅっとシーツに押し付けると彼の顔はみるみる困惑と焦りの色に染まる。なんで今さらそんなことを聞くのだ。冗談だとでも思われているのだろうか。そんな気、さらさらないというのに。至って大真面目だと言うのに。ふざけるなと叱咤したいのを堪えて、俺はただ静かに謙也さんを見据えた。



「本気です。本気で好きなんです」

「っ、」

「好き、大好き。欲しい。俺のものになって欲しい」

「い、嫌や、やめ…っ、やだ」



恥じらいなんてかなぐり捨てて思ったままの気持ちを口にすれば、途端に謙也さんの体はカタカタと小さく震え出してまるで駄々をこねる幼い子供のように嫌だ嫌だと首を横に振った。その瞳に映るのは俺と、畏怖。今、目の前にいる謙也さんはいつもの彼じゃ考えられないほど、見たこともないくらいに弱々しく、小さく見えて。



「好きです」

「嫌や、止めて、お願い…っ」



尚も懲りずに告白し続けると謙也さんは聞きたくないと言わんばかりにばたつく。仕方なく押さえていた肩から手を離してやれば、すぐさま両手で耳を塞ぎ縮こまってしまった謙也さんに、俺は首を傾げて問う。



「何がそんなに怖いん?」

「…」

「何が、あったん?」



視線の先で怯えるのは俺の知っている謙也さんじゃなくて、俺の知らない謙也さん。この人は、俺が怖いんじゃない。俺が"好き"と言うことに恐れているように見える。好かれること自体に、震えているように思える。そっと、壊れ物に触れるようになるべく優しい手つきで謙也さんの頬に手を添えると、彼は肩をびくりと跳ねさせる。見つめた瞳をじわじわと滲ませて揺らがせているのは、涙以外の何物でもなかった。

こんなに辛そうな謙也さん、初めて見た。悲しませるつもりなんて毛頭なかったのに。もう4年もの付き合いになるというのに俺は謙也さんの全てを知れていないのかと、それを思ったらなんだか物凄く悲しくなった。仲間外れにされたみたいに、寂しくなった。



「そんな顔、せんといてください」

「っ、嫌、や…も、やだ…」

「、ごめんなさい」



そう言って頬をするりと撫でると、とうとう溢れだした涙がゆるりと謙也さんの目尻を伝っていった。それは綺麗な綺麗な透明な粒で、思わず吸い込まれるように見とれてしまった。

泣かせたかったわけじゃない。
怖がらせたかったわけでもない。
ただ、好きだと言いたかった。

押し付けがましいかもしれないけれど、本当に本気で、俺はあなたが好きだから。愛しいから。



「ごめんなさい」



もう一度呟いて、自らの唇に人差し指をあてがいそれを謙也さんの唇にやんわりと押し付けた。本当は直接キスしたかったけれどこれでまた泣かれてしまったら今度は此方まで泣きそうだったので、やめておいた。だって、今ですら謙也さんの濡れた目玉に映る俺は物凄く情けない顔をしている。

好きでいてごめんなさいと、でもそれでも好きなんですと、指先に込めたこの2つの気持ちは果たしてちゃんと彼に伝わったのだろうか。俺には知る由もなかった。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -