炎をまとって真赤に焼け焦げた草が熱風に舞い上げられる。焦げ臭さをものともせず剣を振るい、強靭な肉体とぶつかり合うその音で、かつてうつくしい緑に包まれていた焼野原は充満している。鎧や剣の金属片が落ち、そこに炎を映し出した。

 ネハーレンは金属片の中に、無様な姿の自分を見た。喉元に突きつけられた鋭利な刃を持つ剣を握っているのは、自分の愛おしい人だ。
それはいつかの夜に話した最悪の事態に面しているような気持ちだった。
 喉から熱さがかけ上ってきそうで、口の中に渦巻いている弱音と一緒に嚥下する。騎士王の瞳を見詰めたら、今抱えているものも腹に溜まっているものも、ぜんぶ吐き出してしまいそうだった。ネハーレンはそうしないようにと、視線を金属片の山へ向けながら、草の焼ける音を聞いている。

 心の優しいアルフレッドが、何も思わず自分の喉元に剣を突きつけているとは思わないし、思いたくないが、その顔は人形のように何の感情も滲ませておらず、ネハーレンを見つめているのかも定かではない。ただ、微かに、その剣は震えていた。

「・・馬鹿だな、お前も私も」

 ネハーレンが弾かれたように顔を上げると、穏やかに優しく微笑む騎士王がそこにはいて、焼け焦げる草の匂いと、そこに僅かに混じる血の匂いがなければ素敵もののはずだった。喉元に突きたてられていたはずの剣は騎士王の手元で大人しく輝いている。

 緩やかな弧を描く唇を見たのは、どのくらい前だったか。ネハーレンは霞みつつある記憶を探ってみたが、つい最近ではないようで、くぎ付けになってしまう。いつもの夜ならば、次は何を発するのかと眼差しに期待を込めて見つめるくせに、今はなるべく言葉を紡いでほしくなかった。


 戦場に立つものとして、これまで互いの瞳を見つめたことはなく、色恋に浮かされた体にしか触れたことのない自分の指は引きつるように震えて、戸惑っているようにも見える。
この指はきっと、剣を持つに相応しくないのだ。騎士王の足元に縋り付いて、愛を望むことしかしてこなかった手は、労働にも、もちろん戦場にも無縁の白さだった。騎士王に出会う前、主に褒められたこともあったそれは失われてしまっていた。

 敵だのなんだのを越えて、腐るほど愛して愛されたその果てがこれかと、あざ笑うことしかできなかった。一番大切にしていたものを失ってまで愛した結果がこれかと、そう笑えるくせに、騎士王と出会わなければよかったとは思わない自分がいて、根元から腐ってしまったようだった。

「・・殺してくれ、騎士王」

 仲間の躯が折り重なって虚ろな瞳に水の膜を張っている。その双眸の先にいる騎士王は、ネハーレンの唇にやさしく触れた。

「愛している」

 自分と共に、夜の匂いを体中に纏った、あの騎士王はいないのだ。


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