浦野げんじ様への捧げ物ですvV
企画ご参加、本当にありがとうございました!!
以前 受け取って頂いたイラストのssということで書かせて頂きました(^^)

それでは、少しでもお楽しみ頂ければ幸いです(*><*)





互いに忙しい日々が続いていたが、やっと一区切りする目処も立ってきた。
あまり多くは取れないだろうが、たまの長期休暇なのだからと、私は彼にある提案をしてみる。
さて、愛しいあの人はどんな顔をするだろうか・・・?


White Snow



「旅行に行かないか?」

終業時刻を過ぎた社内。

自分達もそろそろ帰ろうかと話をしていた時、さり気なく、努めてさり気なく、恋人に今度の休みの予定を誘ってみた。

克哉は一瞬呆けて、その後見る見るうちに顔を赤らめていく。

それだけで嬉しいと感じてくれていることが分かって、私もつい照れてしまった。

「どこへ行きたい?」

「オレが決めて良いんですか?」

「あぁ。君が行きたい所ならどこでも。国内?それとも海外にするか?」

私は本気で言ったつもりだったが、当の本人には、御堂さんが言ったら本当に海外でも行けちゃいそうですね、と笑われた。

若干複雑な気持ちでいると、微笑を絶やさない恋人が、なおも可笑しそうに私の手を取る。

「嬉しい・・・。恋人と旅行なんて、初めてだから・・・」

舞い上がっちゃいます

などと、はにかみながら言われた日には…。

ここが会社でなければ、なけなしの理性などとうに飛んでいただろう。

それでもなけなし、なのだが。

「なら、帰りに本屋にでも寄りませんか?旅行雑誌なんて、読むの久しぶりです」

克哉はニコニコと、これからの予定を立て始めた。

私自身、プライベートでの旅行が久しぶりということもあって、ある程度の情報は欲しい所だった。

握り合った手を名残惜しくも離し、コートの袖に腕を通す。


外へ出ると冬の風が身体に痛いくらいだったが、隣で満面の笑みを浮かべながら歩く恋人が、春の暖かさを心にくれた。


近くの書店へ入ると、右手正面の棚には数多くの雑誌が陳列されていた。

その中に、各地域ごとの地図や観光地等を取上げたものも所狭しと並んでいる。

この中から選ぶだけでも大変そうだ、などという私の考えは他所に、克哉はそれらをひとつひとつ手に取り、丁寧に中を確認していた。

景色を楽しむならここかな、お土産を買うならこれ、美味しい物も外せないですよね、など、目的地を絞りつつ幾つかの雑誌に目星を付けていく。

そんな彼の一挙一動が、愛おしくて堪らない。

彼を旅行に誘って良かった。

正直、断られることはないだろうと思っていたが、ここまで喜んでくれるとも思っていなかったから、素直に嬉しいと感じる。

彼は知らない。

自分の笑顔がどれほどの力を以て、私を惑わせているか。

「楽しみですね」

花が咲いたような笑顔を向けられ、私も自然と顔が綻んだ。


「御堂さんは、行きたい所や見たい物とかありませんか?」

「いや、私は特に…」

「そう…ですか」

心なしかトーンが下がった恋人の声に、しまった、と思った。

そういうつもりで言ったのではないのに。

今さら何を言っても言い訳にしか聞こえないだろうか…。

いや、しかし

「私は君と一緒に、いつもと違う場所で羽を伸ばせれば、それだけで満足だ。君の喜ぶ顔が見たかったから。
だが、そうだな…。折角なら、良い景色が見える温泉に入りたいな」

心からの言葉をそのまま伝えると、目の前にはまた花が咲き、そうですね!と元気な同意が返ってきた。

「あ、ここなんかどうですか?『四季を通して絶景を楽しめます』ですって。きっと雪が降っても、綺麗な景色が観られるんでしょうね」

写真を指差しながら、私にもそのページを見せてくれる。

そうだな、と答えて、二人で顔を見合わせ微笑み合った。


目的の物を購入し、店から出ると、冬の空が花を散らしていた。

「あ、雪、降ってきましたね」

「今日は一日寒かったからな」

「孝典さん」

「何だ?」

「・・・大好きです!」

雑誌の入った紙袋を胸に抱え、私より一歩大きく前へ進んだかと思うと、彼はクルリとこちらへ振り向き、そう言った。

・・・まったく、君には敵わない。

この台詞も、これで何度目だろうか。

伝えても伝えきれない想いは、空に舞う雪のように、降っては積もり積もっていくだけだと思っていた。

けれど、君はそのこぼれそうな想いさえも、全て受け止めてくれる。

受け止めて、同じだけ、あるいはそれ以上のものを返してくれる。

かけがえのない存在だから。

毎日その笑顔を見ていたいから。

だから私にも言わせてくれ。

「私も、愛している」

fin...


→side克哉
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