チヨ様への捧げ物です(^^)
リクエスト本当にありがとうございました!!

内容は、御堂さん×克哉で、吸血鬼もののパラレルです。
名前などは出ておりませんが、オリジナルのキャラが出てきますm(__;)m

長くなりましたので、分割して掲載させて頂きました。
しばしお付き合い下さいませ(><;)

それでは、ごゆっくりお楽しみ頂ければ幸いです。





相思花



オレ達は、交じり合うことはない

私達は、交じり合ってはならない


オレの声は貴方に届かず

私の手は君に触れられない


花は葉に焦がれ、葉は花に焦がる


同じ時を生きられないなら

せめて幸せであるようにと

君と私の この手を離す





静かな夜だった。
雪がしんしんと降り積もり、穢れも憂いも喜びさえも全てを包み込むそれは、辺り一面を覆っている。

人里離れた山奥に、一つの村があった。
普通の人間は決して入ることの許されない村。
古くからそこは、吸血鬼の住む村として、人から恐れられていた。

灼華村。

人々からそう呼ばれるその村には、名の通り、一年を通して彼岸花が咲き乱れていた。
この時季、この辺りに咲く花といえば空から降る雪花しかない。
それなのに、この村はまるで炎を纏っているかの様に、赤々とその存在を主張させている。
その事がまた、人々に畏怖の念を覚えさせるのであろう。


村の中でも一際大きな屋敷の一室に初老の男が三人、円卓を囲み、険しい面持ちで話をしていた。

「花主(ハナヌシ)様が、永逝されました」

「なんということだ・・・」

「こんな急に・・・。どうするんだ!お役目を引き継ぐ者は・・・」

「案ずるな。次期花主はすでに決まっている。あの方は、その為に生まれてきた御方だ・・・」






「はぁ。寒いと思ったら、雪が降ってたんだ」

白い息を吐き出して、青年はひとりごちた。
露草色の双眸が印象的な、柔らかい表情をした青年。
白い着流しに柳染めの羽織は、青年の儚さをより一層引き立てるようだ。

一人では広すぎる屋敷の一室に、彼は居る。
もうずっと独りだった。
寂しいと思ったことはない。
そんな感情を知らなかったから。
きっとこれからもそれを知ることはないのだろう。

寒さも忘れ、暫く雪花が舞う様を見ていたが、声を掛けられたことで我に返る。

「花主様、お身体に障りますよ。早く中へお入りください」

「あ、すみません・・・。雪を…見ていたんです・・・」

「そうですか。しかし雪は冬の象徴です。我らにとってはあまり縁起の良い物ではございません。さぁ、もう宜しいでしょう。花主様、お早く」

「あの・・・!」

「何でしょう?」

「オレは、まだ、花主ではありません。ですからその・・・」

「・・・ふふ。そんなに張り詰めなくても大丈夫ですよ。あなた様は、我らにとってはもう立派な花主様でいらっしゃいます」

「そうじゃなくて・・・」

青年の主張は最後まで届かず、半ば無理矢理、部屋へと戻されてしまった。


いつもなら、人の言葉には決して逆らわず従う青年だったが、今日は何故かその様な気分になれない。
常に自分を見張るかの如く咲き誇るあの花が、今日だけは白い花に覆われているからだろうか。
今であれば、外の世界へ踏み出せるかもしれない。
こんな事を考える時点で今日は少しおかしいのかもな、と自分で自分を笑ってしまう。
時には考えるより先に行動を起こしてみようか。
そんな欲求が自分にもあったなんて。

気付けば雪の上に立っていた。







「村の外って、こんな風になってるんだ・・・」

初めて見るものに興奮しつつ、行く当てもないまま、ただ歩いていた。
青年の瞳は白銀の世界に引き寄せられる。
いつも部屋の中から見ているものとは違った景色に、心が躍った。

鈍色の空を見上げると、先程まで止んでいた雪がまた姿を見せる。

「やっぱり、寒いな・・・」

思い出したように一言呟くと、青年はゆっくりと瞼を閉じた。


このまま帰らなかったら、どうなるんだろう・・・。

・・・オレは、誰で、どこに、いるんだ・・・?


しかし青年の心の中の問いには、誰も応えてはくれなかった。

その代わり

「帰れないのか?」

ふいに自分へと掛けられた言葉。

驚いて投げた視線の先、一人の男が自分に傘を差し出している。

綺麗な人だ と 思った。

青丹の着流しと、その上から羽織っている黒檀の羽織が良く似合っている。
何より、自分を真っ直ぐ映すその紫紺の両眼に、青年は魅入られてしまった。

二人の間に、沈黙が腰を下ろす。

雪が、はらはらと舞っていた。


「……冷たいな・・・」

「え・・・」

ようやく世界に音が戻った。

男は青年の腕を取り、そのまま迷いなく歩みを進める。
青年は、男に引かれるがまま歩調を合わせていた。

そこに生まれた腕から伝わる熱に、驚きと戸惑いを感じながら―――。





「あまり自慢できる見場ではないが・・・」

そう言って青年が案内されたのは、あれから少し歩いた所に、静かに佇んだ庵。
決して広いとは言えないが、一人で暮らすには十分であろう。
物が殆どないのは、敢えてそうしているのか。
中へ通され、好きな所に掛けろと促された。
男は中央にある囲炉裏に木をくべながら、火を大きくしていく。
ようやく、落ち着いて話が出来る雰囲気が整った。

青年には、色々と聞きたい事や、話したい事があった。
しかし、それより先に、男が口を開く。
彼から最初に出たのは、謝罪の言葉だった。

「何も聞かずに連れて来てすまない。だが、私にも良く分からないが、あのままではいけないと思った」

こんな薄着で雪空の下をうろついていたら、誰でも不審に思うだろう。
それを何も言わずに家にまで上げてくれた事に感謝こそすれ、責めるなどとは考えつきもしなかった。
そう青年は伝えると、男は幾分表情が柔らかくなった気がした。

「・・・私は、御堂と言う。
 君の名を、教えてくれないか」

「!!」

「?どうした?」

「い、いえ、なんでも。あ、オレの名前は克哉、です」

「そうか。
 ・・・克哉、君はどうしてあんな所に?」

「大した事じゃないんです、本当に。ただ、外を歩いてみたかった。それだけなんです。
すみません。初めてお会いしたのに、こんなご迷惑をお掛けして・・・」

「それは構わない。どことなく不安そうな顔をしていたから、少し気になった。
 不安・・・少し違うか。君が何かに捕らわれている様に見えた、という方が正しいかもしれない」

「・・・貴方の眼は、何でも見通す力があるんですか?」

正確に的を射た御堂の言葉に、克哉は驚きを隠せない。
しかしそれよりも、自分の心の内が他人に伝わったのは多分これが初めてだと思うと、泣きたい衝動に駆られた。
それを必死に堪え、笑おうとする青年に、男は諭す様に一言告げる。

「ここでまで、無理する必要はない」


カシャン


克哉の中で、何かが外れる音がした。

白磁の肌に、真珠の様な涙が止め処なく流れる。

御堂は、何も言わずただ克哉を見つめていた。

どれくらいの時間泣いていたか分からない。
枷が外れたのか、頬に涙の筋は通っているものの、先程よりは大分表情が晴れている青年を、御堂はなおも見つめていた。
自身の右手をそっと相手の頬に近付け、親指で優しくその痕を拭ってやる。
克哉にとって、御堂の行動全てが初めての事だった。
こんな時、どんな表情をすれば良いのかさえ分からない。
ただ分かるのは、この感情が、嬉しいと呼ぶものだという事だけだった。





克哉は誰にも見つからないよう、こっそりと屋敷の門をくぐった。
静まり返ったその中に、自分の本当の居場所などない、と思う。
御堂のもとで過ごした数刻が、すでに恋しくなっていた。


短い時間だったが、色々な話をした。
初めて外を歩いた感想。
外で見る雪はどこか違って見えたこと。
そして、自分の住む村以外では、一輪も彼岸花が咲いていないこと。
御堂は黙って話を聴いてくれ、時には自分の事も少し話してくれた。
楽しかった。
あんなにも誰かと話をしたのは初めてだったから。
克哉は、自分の中にこれほどの数の感情があるとは思っていなかった。
あそこにいた僅かな時の中で、少しだけ自分というものを理解できたのかもしれない。
それからは、克哉は事あるごとに御堂を訪ねた。
その度、御堂も優しく迎え入れてくれ、二人の距離は自然と縮まっていった。


ある時、いつもと同じ様に克哉が庵から戻って来たところを、呼び止める者がいた。
振り返ると、克哉よりも若い風貌の青年が笑みをこぼしながら近付いて来る。

「花主様、どこ行ってたの?抜け出しちゃだめじゃん〜」

「太一・・・」

太一と呼ばれた青年は、悪戯っぽい表情を浮かべ克哉に詰め寄った。

「も〜、どうせならオレも誘ってよ〜。あ、二人で愛の逃避行ってのも良いよね♪」

「・・・ねぇ太一」

「なに?」

「外にも、オレ達を理解してくれる人って、いるんじゃないかな?」

「・・・何言ってんの?」

太一の目は朗らかなものから一転、業火の様な激しい色を纏い、克哉を捕らえた。

ダンッ!!

素早く腕を上げると、壁際にいた克哉の左頬を掠める様にして、壁に拳を叩きつける。

「!!」

太一の豹変振りに声が出ない克哉は、驚いた顔をそのままに目の前の青年を見つめていた。

「花主様、まさか、外の人間と会ったの?
 それ、掟を破ったことになるの、知ってるよね?
 ・・・どうする?オレに黙ってて欲しいなら、そうするよ?
 花主様次第だけど・・・。どういう意味か、分かるよね」

一気に捲し立てる太一は、克哉の知るいつもの彼ではなかった。
恐怖心さえ浮かんでくる。
それを必死で振り払おうと、克哉が太一に言葉を投げかける瞬間、別の方から彼らを咎める声がした。

「何をしている?
 太一、花主様から離れなさい」

「・・・あんたには関係ないだろ」

「お前はもう行け。わしは花主様にお話がある」

「・・・チッ」

「太一・・・」

険しい表情は残しつつもその言葉に従い、太一は克哉の前から姿を消した。

「さぁ、花主様。外はまだ冷えます。早く中へ・・・、と言いたい所ですが、一つお聞きしたい事が」

「何ですか?」

そう返したものの、克哉には次に来る質問が分かっていた。

「近頃、よく外出をなさっているようで」

「別に、外に出るくらいは構わないでしょう?」

「それはそうですが、誰にも何もお伝えにならず、あまつさえ外の者と関わりを持つなどという掟破りの事までなされては・・・」

「・・・以後、気を付けます」

「そのお言葉を聞けて良かった。
 あぁ、そうそう。花冠の儀は三日後に決まりましたので。お忘れなきようお願い致します」

「・・・ッ!」

いつかは来ると分かっていた。覚悟も決めていた。

そのつもりだったのに。

いざ現実を突きつけられると、目を背けたくなる。

それはただ自分が壊れるのが恐いだけ?

それとも・・・。

「御堂さん・・・。せめてもう一度。もう一度だけ・・・」

この気持ちの名も分からないまま、花は籠から抜け出した。

これが最後と自分に言い聞かせて。





→後編


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