鬼畜眼鏡 全カップリング網羅編 発売日



「ただいま・・・。・・・っ」

つい零してしまった言葉に、御堂は口元を押さえた。
帰宅した部屋には誰もいないのに、癖というものはなかなか抜けるものではないと自嘲して靴を脱ぐ。

この部屋は、こんなにも広かっただろうか。
灯りを点けても暗いのは、気のせい?
最近冷え込んできたが、今日は一段と寒い気がする・・・。

ジャケットを放り投げて、ソファに沈み込んだ。
何もする気になれない。
食事だって、腹が膨れればそれでいいが、それさえも面倒だ。
美味しいものを食べてもそう感じないのだから、何を口にしても同じ事。
他愛ない話をしながら夕飯を囲むことの幸せを、今更ながらに噛み締めて天を仰いだ。
仕事を終えた身体は休息を欲しているが、ベッドへ行くのも億劫になってソファに寝そべる姿は、会社で見せるそれからは想像もつかないくらい酷い有様だった。
このままここで寝てしまおうか。

「ダメですよ。風邪ひいちゃいます。ごはんも食べてないんでしょう?簡単なものですけど今から作りますから、ちゃんと着替えてくださいね」

「!!?」

ああそうか。これは夢だ。昨日の続きだ。
それならいっそ、このまま眠り続けて、君の存在を感じ続けていたい。

「あ!ダメですよ、孝典さん!また寝ようとして」

優しい声に窘められて、軽く頬をつねられた。

「痛い・・・」

「えっ!?あ、すみません!」

「痛い・・・?どうして・・・」

「孝典さん・・・?すみません、そんなに痛かったですか?ごめんなさい・・・」

「・・・いる」

「・・・・・はい。います。ただいま、孝典さん」

ものの数分、目を瞑っていただけだと思っていた時間は、実際は御堂が帰宅してから一時間ほど経っていた。

「帰ってくるなんて、聞いてなかったぞ」

「ビックリさせようと思って。・・・あと、一時帰国なので、またすぐに行かなきゃならないから・・・」

あまり浮かれていると、戻りたくなくなる。
だから期待を持たせたくなかった。何よりも、自分自身に。
そう言って苦笑する克哉を、御堂は思い切り引っ張って自分の胸の中に抱き留めた。

「そんなもの・・・。私だって同じだ。君の声が聴こえた時、また夢かと思って苦しくなって、君につねられた時、叫びたいくらいに嬉しくなった」

「・・・はい」

ただ静かに克哉は笑った。
御堂の腕の中で、自分も嬉しいと何度も囁く。
啄ばむ様な口づけをどちらからともなく繰り返し、ソファへといっそう深く沈み込んだ。

「ん・・・っ、孝典さん・・・」

「克哉・・・」

「あ・・・っ、んっ・・・、・・・・・・あ!ごはん!作らなきゃ・・・」

「後でいい」

「でも・・・、っ、孝典さん・・・。・・・はい」

「それでいい」

くすりと笑い合って、久方ぶりの熱を深く深く交わす。
解けた二本のネクタイが、絡み合いながら床を飾った。
その様が、まるで自分達そのものだと苦笑するのは、次の日の遅い朝の話。




コミックス発売おめでとうございます!!
発売日には、二人の再会を目指して書いていたので、達成できて嬉しいです。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!


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