白い悪魔の水難



「孝典さん!他にお手伝いすること、ありますか?」

手を泡だらけにした克哉が、目をキラキラさせながら訊ねた。

頭から水を被ると、アルパカという獣に変身するという特異体質の持ち主である彼は、現在、御堂孝典のマンションに居候中の身である。
今日も今日とて家主の役に立ちたいと、自ら食後の片付けを名乗り出た。
手が濡れる程度ならば心配は要らないと、キッチンを克哉に任せていた御堂だったが、予想以上に泡が溢れているシンクには流石に絶句した。

「泡だらけじゃないか」

「ふぇ?」

「ほら、頬にまで・・・」

呆れた溜め息を吐いて、克哉の右頬を親指で拭う御堂。
気持ち良さそうに目を細める克哉は、綺麗になった食器を満足気に眺めた。

「孝典さん。他には?他には?」

「ああ・・・なら、風呂掃除・・・は、ダメか。・・・って、おい、克哉!」

御堂の言葉を最後まで聞かず、克哉は軽快にバスルームまで走って行ってしまった。
慌てて追い掛ける家主は自分にとって最悪の事態を想像し、その足を速める。
しかし、その甲斐虚しく、ドアを開けた先には獣が姿を現していた。

「・・・・だから言っただろう」

「ふぇ〜」

静かに怒りを湛える御堂は、濡れたアルパカにコンコンと説教を続け、バスタオルでグルグル巻きにしてしまった。
御堂の小言を聞いているのかいないのか、十中八九聞いてはいないが、克哉は楽しそうに御堂に身体をすり寄せる。

「こら!私まで濡れるじゃないか。じっとしなさい」

「ぷぇっくしっ」

「・・・くしゃみまで間抜けなのか」

尖った言い方をしつつも、風邪を引かぬようにと素早くドライヤーに手を伸ばす御堂。
普段あまり立ち寄ることのない家電量販店で、克哉用に購入したそれが力を発揮していると、眠気が襲ってきたのか、大きな目が次第に瞼に隠れていく。

「これ以上の説教は、人間に戻ってからだ」

本日二度目の溜め息の後、御堂は苦笑しながら、柔らかな背を優しく撫でた。




お風呂掃除しながら思いついたネタで、日記に掲載していたものです。
本当は、アルパカは水に濡れてはいけない動物らしいので、御堂さんも注意しながら見ています(笑)


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