「……。…………」
「……あ」
「何だ」
横目でオレを見る紫色の瞳は、もう目が座っていたりする。
なので、一応口元を抑えて、何でもないと言う態度を示す。
しかし、機嫌が頗る悪くなる一方の恋人は、何だと低い声でもう一度言う。
「……その、それは、こういう風に……」
横から小さな機械の画面にタッチして、先程から詰まっていたやり取りを一部解消させた。
すると、無言のまま新しくした携帯を握り締め、オレが操作した画面を見続ける。
「したら、いいと思います。すいません、余計な事しました」
自分の悪い癖が始まり、先に謝ると、ますます眉間に皺が寄る恋人。
ソファーに座る自分達の距離が近いから、色々と余計に気を使ってしまう。
「いや……、いい。……それで、この次は?」
「えっ?あ、ああ、こうです」
スムーズに画面をスクロールさせ、次の項目を表示させる。
ポンポンと人差し指で文字を打ち込み、決定ボタンを押す。
「ね?簡単……」
「な、訳あるか。面倒臭いにも、程がある。大体、何がスマートだ。こんな物、機能は電話だけで充分だろ」
「……。じゃあ、これにしない方が、よかったじゃないですか?」
「……。君が……」
眉間の皺は刻まれたまま。
けれど、オレを見る紫色の瞳が、何かを伺う。
「皆、お揃いに見えると言った」
爆発的に普及した、一番有名なスマートフォン。
すなわち、同じ携帯を持っている人の率が高いのだ。
「ふふっ……。今日から、孝典さんとオレもお揃いですよ」
「……。はぁ……。少し早まった気もするが……」
「あ!また、そんな事を言う!もう、そんな事ばかり言うなら、教えませんよ!?」
恋人の真意を知ったのなら、形勢は逆転する。
強気にそんな事を言えば、苦虫を噛み潰した様に、低い声が丁重に願い出た。
「もう言わないから、教えてくれ」
「ちゃんと、言って下さい」
「……使いこなせないと、仕事にならないから、教えて欲しい」
「それなら、報酬は……」
そうして、恋人に耳打ちした言葉で、ようやく眉間の皺が取れる。
『キスを一つ』
それだけでは、終わらないけれど。
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