伝わる温度
「克哉。おはよう」
「ん・・・。孝典さん・・・、おはよう・・・ございます・・・?」
「・・・といっても、今は夕方だがな」
肩を揺らして笑いながら、御堂は克哉の柔らかな髪を梳いていく。
ソファに身体を沈ませた御堂は、先にその場で横になっていた克哉を愛しそうに見つめた。
段々と意識が鮮明になってきた克哉は、現在の状況をようやく掴んだらしい。
飛び起きる様に身体を起こし、すぐさま顔を紅潮させた。
「オ、オレ・・・、寝ちゃってたんですね。すみません・・・。何だか、恥ずかしいし・・・」
「恥ずかしがる必要はない。可愛い寝顔だった」
そう言いながら、色付いた頬に軽い口づけを落とす御堂は、心底幸せそうだった。
克哉もまた、照れた表情はそのままに、自然と笑みが零れる。
急な依頼で作成しなくてはいけなくなったレポートに、朝から掛かりきっていた御堂は、ようやく目処がついたと苦笑した。
それを聞いた克哉も、安堵の表情を見せる。
手伝いたい気持ちは十二分にあるのに、自分の出来る範囲は限られている。
今日もそんな歯痒さを痛感したばかりで、気付けば、手持ち無沙汰な時間を利用して洋菓子作りなどに没頭していた。
出来上がるまでの時間を、本でも読んで過ごそうと考えていたが、いつの間にか眠っていたらしい。
時計に目を遣れば、予想以上に進んだ時間に驚きの声を上げた。
急いでキッチンへ向かおうとした克哉だったが、手に強い温もりを感じて、視線をそちらに移す。
そこには、自分の手にしっかりと繋がれた、恋人の手があった。
「あの・・・、孝典さん・・・。もしかして、ずっと握ってたんですか?」
「少しの間だけな。――君が、私の名を呼ぶから」
「えぇ!?オ、オレは、そんな恥ずかしい事を・・・!」
真っ赤になる克哉に微笑みながら、御堂はもう一度、その頬に唇を落とした。
「君が、あまりに可愛いから、離したくなかったんだ」
そう言って、さらに強く指が絡んでくる。
克哉もそれに応えるように、指に込める力を強めた。
そして、繋がった部分に唇を近付け、最初は親指、次に人差し指、最後は手の甲へと、順に口づけていく。
「・・・ん・・・・・。オレも、あなたを離したくない。孝典さん。好きです・・・」
「・・・まったく。可愛いにも程があるだろう。それ以上私を煽るなら、それなりの覚悟はしておけよ、克哉」
「ふふっ。はい。孝典さん。いつでも覚悟は出来てます」
絡み合った指先から、繋がる手へ、感じるのは貴方の熱だけ。
⇒あとがき
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