匿名希望様、大変お待たせ致しました。
RPGパロで、ほのぼの要素を含む兄弟ものです。
少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。
あなたは、『ククリトトリ』と呼ばれる人たちを知っていますか?
《きのこに腰掛ける人》という意味を持つ彼らは、遠い遠い森で、ひっそりと暮らしています。
これは、そんな、とあるククリトトリの兄弟のお話。
ククリトトリの冒険
「孝典さん、孝典さん!見てください。こんなに大きな草イチゴが取れましたよ!」
「これはすごいな。これだけあれば、当分は安心だ」
「はい!ジャムでしょ、ムースでしょ、それから・・・」
「まあ、落ち着け。今日は、あいつが来るんだろう?準備は出来てるのか?
・・・私は呼んではいないが」
「ふふっ。相変わらず、孝典さんは本多に厳しいですね」
「あいつは毎度毎度、人の家で騒ぎ過ぎだ」
ククリトトリの御堂孝典と、その弟である克哉は、静かで平和なこの森で仲良く暮らしていました。
今日は、克哉の友達である本多が、たくさん取れたハチミツをおすそ分けしに来てくれる日です。
克哉が、草イチゴのメニューを考えていると、トントンと木のドアを叩く音がしました。
御堂がドアを開けるより早く、外から元気良く現れたのは、大きな籠を片手で抱えたククリトトリでした。
「よお、克哉!元気にしてたか?」
「・・・君は、ドアを開けて貰うのを待つことも出来ないのか?
まったく、いつもいつも・・・」
「お?御堂さんも元気でしたか?まあまあ、細かい事は気にせず」
本多は豪快に笑って、ズンズンと部屋の真ん中まで歩いて行きます。
ドンッと音を立てて大きな籠をテーブルに置くと、その中には、色とりどりのキノコがいっぱいに入っていました。
「わぁ!おいしそう〜!」
それを見た克哉は、とても喜んで、今にも飛び上がらんばかりです。
「今回は特に上物だからな!」
自信満々に言う本多の顔は誇らしげです。
そんな彼を、克哉はキラキラした瞳で見つめながらお礼を言いました。
けれど
「おい、ハチミツはどうした?」
後ろから声を掛けた御堂は、呆れた顔で本多を見ています。
そうです。
今日は、ハチミツを持ってきてくれるという約束だったはずですが、本多が持ってきた籠には、キノコしか入っていません。
それだけでも、克哉にとってはとても嬉しい贈り物ですが、約束を破ったことのない本多だけに、余計気になります。
克哉も、御堂と同じ質問をしました。
「実は・・・」
すると、本多は悔しそうな表情をし、いつもの彼らしくない歯切れの悪い話し方で話し始めました。
「西のクヌギの木の下2丁目に、でっけぇ蛇が住みついちまったんだ。そのお陰で、今あの辺一帯には、厳戒態勢が敷かれてる。
蛇なんて、俺がこの腕一本で倒してやるって言ったのに、他の連中が、木に近付けさせてくれさえしなくてよ」
「そうなんだ・・・」
最初は真剣に聴いていた克哉も、後半からは相槌が曖昧になってきましたが、本多はそんな事気にしません。
ひとしきり武勇伝を語った後、力自慢のククリトトリは、克哉の両肩を痛いほど叩いてこう言いました。
「だから、な!克哉、俺と蛇退治に行こう!」
本多の輝く目が、克哉をさらに不安な顔にさせます。
それを見ていた御堂は、コホンと一つ、咳払いをしました。
「何が『だから』なのか分からない上、君の勝手な行動に、克哉を振り回して貰っては困る。そもそも、そんな危険な場所に、私が克哉を行かせる訳がないだろう。行くなら、君一人で行きたまえ。私は止めん」
御堂は克哉の肩を抱き寄せて、シッシッと言わんばかりに片手をヒラヒラさせています。
そんな彼に、本多は怒って言いました。
「あんたには言ってねぇ!俺は、克哉と行くって言ったんだ!・・・はは〜ん。分かったぞ。あんた、蛇が怖いんだろ!ビビってんだな?まぁ仕方ないよな。蛇なんて、俺くらいにしか倒せないだろうし。弱っちいあんたじゃ、一発で丸呑みされるだろうな〜」
その言い草に、御堂のこめかみが、ピクピクと動きます。
しかし、先に口を開いたのは克哉でした。
「本多。それ以上、孝典さんを悪く言ったら、オレが怒るよ」
本多にはその一言だけで、効果覿面のようです。
う、と小さく呻いた後、本多は、でも、と続けます。
「あの木が、一番良いハチミツの採れる場所だったんだ。これからずっと、蛇に怯えていかなきゃならないなんて、お前も嫌だろ?」
「確かに、あそこのハチミツは美味しいけど・・・。誰かが危険な目に合うかもしれないなら、無理にとは・・・」
「克哉・・・。お前、そんなにも俺の事を心配して・・・!」
「一般論だ」
克哉に抱きつこうとする本多を押し退け、御堂はピシャリと言い放ちます。
「でも・・・」
御堂にくっついたまま、克哉は静かに言いました。
「やっぱり、これからずっと美味しいハチミツが食べられないのは、嫌だなぁ・・・」
「だろ!?」
本多はまた身を乗り出し、御堂の眉間の皺は、深くなるばかりです。
そんな二人を交互に見ながら、克哉は誰もが驚く事を口にしました。
「・・・もしかしたら、話し合いで解決するんじゃないかな」
「克哉!?何を・・・」
これには御堂も、開いた口が塞がりません。
「きっとその蛇も、無差別に周りを傷付けようとはしてないと思うんだ。その木に住みついた訳も、もしかしたら分かるかもしれない。だから・・・」
それを聴いた御堂は溜め息を吐き、本多は豪快に笑っています。
「ってことで、じゃあ早速行くか!な、克哉!
あ、御堂さんは、大人しく留守番でもしててくださいよ。それじゃ!」
「馬鹿か。克哉を一人で行かせる訳がないだろう」
克哉の右腕に御堂が、左腕には本多がくっついたまま、二人が睨み合った後には、3人皆がクヌギの木の下2丁目を目指していました。
⇒後編