嫉妬深いかと訊かれれば、有り得ない、と自信を持って答えられる頃は、疾うに過ぎてしまった。
恐らく、そんな日は二度と戻ってこないだろう。

だって

「あぁ〜!惜しい!・・・そこっ!よしっ!」

この歳になって、テレビにすら嫉妬するとは、自分でも思わなかったから。




どっちが好き?



「・・・・克哉」

「うん、今のはいい所だった!あれは捕れないよな」

「克哉」

「うわっ!早っ!」

「克哉」

「まだまだいける・・・って、うわ!?た、孝典さん!?どうしたんですか?」

「どうもこうも、君が悪い」

「え・・・?」

「私は君しか見ていないのに、君はテレビばかり見て、ちっとも相手をしてくれない」

克哉の膝に頭を乗せた私は、拗ねた顔を作り、困り顔の恋人を見上げた。
今、日本中を熱狂させているのは、バレーボールの世界大会だ。
そのテレビ中継を二人で観戦していたのだが、想像以上に克哉の熱が上がってしまい、今に至る。
学生時代、彼がバレーをしていたのは知っている。
だから、人一倍、このスポーツに熱を傾ける事も理解している。

だが。

「つまらない」

髪を弄られながら、子供みたいなワガママを言ってみる。
すると、思った通り、困った顔をして私を見る克哉。
実際はそれほど退屈でもないのだが、彼のこういう顔を見るのが、愉しくて仕方がない。
だからもう少し、その視線を自分だけに向けて欲しい。
伸ばした手の先には薄く色付いた頬があり、それに重なるのは、愛しい恋人の手。
優しい眼が私を見つめ、静かな時間が続くと思った、その矢先。

『日本、第2セット連取ー!』

「え!?やった!」

「・・・・・私とバレー、どっちが好きなんだ!?」

「孝典さん!?どうしたんですか!?」

「どうしたんだろうな。さてこっちは、何セットまでいこうか、克哉」

「何の話ですか〜!?」

こうして、夜は更けていった。




⇒あとがき

⇒title


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