真っ暗な森の中。

軟禁された、元王子が居た。

気高き心を持つのに、彼は罪を犯した。

それは、この国で一番の大罪。

則ち、王様を殺したのだ。



シュレティンガーの猫箱




ブーツが地面を踏み締める度、暗鬱とした気持ちが高まっていた。

けれど、森の奥深く。

佇む、小屋を見て、克哉は小さく深呼吸した。

「・・・」

酸素が多くて、逆に息苦しさを感じながら、小屋の扉をノックする。

時間を掛けて開けられた扉に、安堵が胸を満たす。

「何の用だ?」

扉を開けた主、御堂へ、克哉は軽く頭を下げる。

「処刑の日が、決まりました」

「・・・。・・・そうか」

国が誇る紫色が細められ、克哉は瞳を伏せて続きを話す。

「明後日の昼。あなたには、国民の前で懺悔して貰うそうです」

「・・・分かった」

「では、その内容を、先にお聞かせ下さりますか?」

「いいだろう。だが、どうせ君も信じない」

願い出た克哉を御堂は部屋へと通し、温かい飲み物を作ってから話を始めた。

いつも芳しい香りが御堂の部屋へと、訪れていた。

それは、庭園にある薔薇の香りなのだが、毎日誰かが花瓶に入れていたのだ。

『やはり、それぞれに匂いが違うのだな』

庭園の薔薇達に鼻を近付けて、御堂が呟くと花びらが風に揺れる。

赤、黄色、白、紫。

色合いも違う薔薇が揺れ、見上げた先には陰り始める空模様。

雨が降るなと思えば、先走る様に一粒だけ御堂の頬を濡らす。

どうにかなると思った。

けれど、どうにもならない現実が、御堂を叩きのめす。

『・・・仕方ない。仕方がないんだ・・・』

気高き薔薇にも、虫が寄り付くのだ。



「大臣達の不正?」

「多く見積もっても、半数を超えていた。糾すには証拠が弱かったが、芋づる式で罪が明るみに出せれた」

「なら・・・」

どうして、こうなったと言えば、御堂は苦笑しか浮かべない。

「言っただろ。半数を超えていた。つまり、私達は多数に負けた」

国民には、乱心した王子が王を殺し、幽閉されたと言われている。

けれど、深い森の奥、温かい飲み物を喉に通す男は、気高い色に復讐の炎を灯していた。

「私の父は、あそこで悠々と過ごす肥えた豚共に、殺された」

「・・・」

「だから、チャンスは一度」

コトッとカップが机に置かれ、壁に立てかけた剣を御堂が見遣る。

代々、受け継がれた宝剣。

美しく手入れされた剣に、克哉は小さく頭を振るう。

「あなたは、何も知らない」

「死ぬ覚悟は、遠の昔に決めている。死ぬなら相討ちをと、望むのが悪いか?」

いいえと、又もや克哉が頭を振り、真実を語る。

「王政が失われました。革命を起こした、民達の手によって」

「なっ!!」

「あなたの討つべき相手は、知らない内に無くなった」

克哉は組んだ両手で顔を隠すと、御堂の言葉を待った。

そして、数分後に発された言葉で、やはりこの人は気高き人間だと知る。

「ようやく、民が幸福に過ごせるのだな」

彼が囚われてから、悪政ばかりが続いた。

けれど、民達の手で、糾される。

憑き物が落ちたかの様に、深く椅子に御堂が腰掛け、見詰める先は剣では無く克哉。

「ありがとう、克哉」

「っ!いえ!オレは、何にも」

「君から、庭園の薔薇の匂いがする。あそこの手入れを、まだしてくれているのだろう?」

「分かって!」

涙を溜めた瞳が御堂を写し、何度も髪の毛が揺れる。

「ずっと、ずっと、オレは、あなたを捜してたんです。御堂さん、お願いします。王政は失われましたが、あなたには民を先導して欲しい」

庭師だった克哉は、御堂が囚われてから、ずっと彼の姿を捜していた。

「・・・ダメだ。私には・・・」

「お願いします!!あなたしか、居ないんです!!」

御堂の両手を掴み、純粋な水が肌を濡らしていく。

「あなただけだ・・・。オレが心から慕う、あなただけしか・・・」

芳しい薔薇の香り。

胸一杯に染み込めば、克哉の目尻に唇が当たる。

「薔薇を守ってくれた君の、頼みは断れない」

その応えに感極まった克哉が、御堂に抱き着き礼を述べた。

何度も、何度も礼を述べ、最後に

「お帰りなさい、孝典さん」

ようやく、恋人に向ける笑顔を浮かべた。


⇒えろねたv

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