とある映画の、とある台詞にある。
『人生は、惨めか悲惨かの二種類だ』
ならば、私の人生は、どちらだろう?
愛する人には
仕事には、誇りと敬意を持って挑め。
それをスタンスにすれば、坦々と出世の階段を上って行けた。
着実に階段を上がり、自分を脅かす者など存在しないと驕る。
けれど、たった一人、自分を脅かす存在が出来た。
佐伯 克哉だ。
彼との関係は、ビジネスを絡ませれば、誇りも敬意も払わず、寧ろ蔑み辱めた。
なのに、彼は私を好きだと言う。
現実は小説より奇なりと言われるが、それより不可解な現実が訪れたのだ。
「・・・ん、なん・・・、ですか・・・?」
「いや・・・、髪を直そうとしただけだ」
ベッドの上で乱れた前髪を直すと、克哉が身を寄せて小さく礼を言う。
素肌が密着し腕枕をしたまま、後ろ髪に指先を滑り込ませる。
毛先を弄ぶと、まだ寝ないのかと聞かれた。
「あしたも、しごとでしょう?」
掠れた声に、そうだなと返して顔を克哉の頭に寄せる。
甘い香りが仄かに残り、こんな現実を教えた。
「・・・おやすみ、克哉」
「おやすみなさい・・・、たかのりさん・・・」
とても、温かい感情が、自分にもある事を。
つまり君が、私を赦さなければ、悲惨な人生だった。
それなら、私の人生は惨めなのか?と言う事になる。
玄関サイドに置いてあるカードキーは、綺麗に2枚並び支度を終えた克哉がパタパタと駆け寄る。
開口一番、遅れた謝罪から始まるのを、苦笑混じりに大丈夫だと返す。
「まだ時間がある。今日は、のんびりと行こう」
「はい」
カードキーを一枚渡せば、はにかみながら同意して、私の後ろを歩む恋人。
時折、振り向くと、いつだって笑顔を浮かべる。
だから、いつだって思う。
『今すぐ、抱きしめて、キスをしたい』
「ねぇ、孝典さん」
機械独特の駆動音を響かせ、エレベーターが階下へと向かう。
横に移動した克哉が声を発し、階下に到着した箱から踊り出る。
「寄り道しましょうよ。オレ、コーヒー飲みたくなりました」
「それは、いいな。なら、車を取って来るから」
「入口で待ってます」
私から言葉を奪うと、足取り軽やかに克哉が歩いて行く。
それを見送り、自分は駐車場へと足を向けた。
「へぇ、可愛い」
カフェのテーブルにある、グラスに入ったミニバラのブーケ。
テーブル事に色合いが違い、私達が座る席には紫色が花咲いていた。
「紫の薔薇って、御堂さんみたいですよね」
花弁に触れ言葉を漏らす克哉に、何がだと聞いた。
すると、淡く笑んで、内緒ですと答える。
「ただ、オレは、いつもそう思ってます」
冷えたコーヒーに口を付け、答えを教える気がない彼に、隣のテーブルを見るように促す。
「私は、あの赤い薔薇の様に、君を想ってる」
「・・・ふふっ。ありがとうございます」
「・・・。それにしても、歯が浮きすぎて、痒いな」
「そうですね。けど、嬉しいです」
つまり、愛する人には、いつだって醜態を曝し、情けなくなる。
だから、私の人生は、これからも惨めだ。
「だが、笑った罰は、受けて貰おう」
「へっ?・・・え、あ、あれで!?」
「私は笑われるのが、一番嫌いなのでな。取り合えず・・・」
「!!」
軽く左手の甲に口付ければ、一瞬にして隣の薔薇の様に、克哉の全身が染まる。
「君こそ、私の誇りだ」
「な、な、うぅ〜・・・。知ってたなんて、ズルイ・・・」
そして、今日も君が思ってくれる花言葉の様に、惨めな人生を誇りを持って続けていく。
⇒パラレルネタv
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