オレの視線の先には、いつも、あの人がいる。
けれど・・・。
みつめているのは
気付けば、彼を目で追っている。
仕事中にも関わらず、不謹慎だと分かっていても、視線はいつの間にか、あの人を捕らえているのだ。
そしてその姿が見えなくなると―――
(今頃、御堂さんは執務室かな・・・)
などと考える始末。
「はぁ・・・」
終いには溜め息を洩らし、パソコンの画面にその視線を戻すのが、最近の常だった。
そして生まれた、小さな、ほんの小さな悩み。
それは―――
(御堂さんは、やっぱりこっちを見てくれないのかな)
いや、目が合えば、それはそれで大変な事になりそうなのだが、一度も視線が合わないというのも、やはり、少し・・・。
「さみしい、かな・・・」
ポツリと出た、小さな本音。
仕事中なんだし、そんな事に感けてる自分が一番ダメなのは分かってる。
だけど・・・。
オレはいつも貴方の事を考えていますが、貴方はどうですか?
同じ空間にいるだけで、視線は貴方から離れなくなり、心は貴方の事でいっぱいになる。
一瞬でも良い。
貴方からの視線を欲するのは、ワガママでしょうか。
―――ほら、また。
再度、一室に入ってきた彼の視線は他の人へと向けられ、話が終わると、窓の外を一瞬見て退室して行く。
(ちょっとくらい・・・)
「・・・・・・はぁ〜。オレって、小さい・・・」
「あ、佐伯さん。これ、後で御堂部長が報告して欲しいって・・・」
「え!?なに!?」
「わ!す、すみません」
「あ、藤田君・・・。こっちこそごめん、ビックリさせちゃった。・・・うん、分かった。後で部長の所へ持って行くよ」
「お願いします」
こんな小さな事で悩んで、他の人にまで迷惑掛けちゃダメだろ、オレ。
自分を鼓舞し、執務室のドアをノックした。
「御堂部長、先程の報告書です。まだデータが揃っていない部分がありますので、明日また整理して・・・」
「克哉」
「は、はい!?」
いきなり名前を呼ばれて、驚かない筈がなかった。
その視線は、真っ直ぐにオレを捕らえ、離そうとはしない。
オレが欲しかったもの。
でも、今のそれは、少し色が違っていて・・・。
「君は、今日、何か引っかかる事でもあるのか?」
「え・・・?なぜ、ですか?」
「朝から、ずっと難しそうな顔をしている。いつ見ても、君は明後日の方を向いて、ちっともこちらを見てくれない」
ふいと逸らした彼の視線は、所在無げに窓の外に向けられている。
「あ・・・。・・・み・・・孝典さん」
「何だ?」
まだ若干膨れた頬を、思わず可愛いと思ってしまう。
「オレもです」
「・・・何がだ?」
「オレも・・・というか、オレの方がもっとずっと、そんな気持ちだったんですよ」
なおも分からない、といった顔で、彼は目を丸くする。
そんな、愛おしい人の傍に歩み寄り、照れながらも囁いた。
「ずっと見てたのは、オレの方です。あなたが、オレを見てくれたら良いのにって、ずっと思ってました」
「それは・・・。お互い様、だな」
「ですね」
やっと合わさった視線は、どちらも照れて、ぎこちなく。
けれど、その瞳をずっと見せていてくださいと、心の中で願えば、
全く同じ事を、言葉と共に口付けで与えられた。
⇒あとがき
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