げんじさん、大変お待たせ致しました!
今回も企画ご参加本当にありがとうございます!!
以前の企画のss続編ということで書かせて頂きました。
少しでもお楽しみ頂けると幸いです(^^)
はんなりと
「着いた〜」
うんと伸びをし、ひとつ深呼吸をした克哉の横で、腕にはめた時計に軽く視線を落とすのは、その恋人、御堂。
貴重な休暇を利用し、二人は京都へ旅行に来ていた。
新幹線を降り、駅から出ると、時折吹く冷たい風が何故か妙に心地良い。
桜や紅葉の季節を外れているからか、観光客は思ったよりも少なく、それは逆に日々の喧騒から離れる意味でも二人にとってはプラスに働く環境だった。
「克哉、まずはどこへ行きたい?」
行く前からあれやこれやと計画を立て、楽しそうにしている恋人の姿を何度も見てきた御堂にとって、今回の旅行は、全てにおいて克哉の思う通りにさせてやりたかった。
それを口に出してしまうと、彼が遠慮をすることは分かっていたから、あえて何も言わずにさり気なく、恋人の意見に耳を傾ける。
「そうですね、そろそろお昼ですし、このままご飯食べに行きませんか?」
「そうだな。そういえば、何か食べたいものがあると言ってなかったか?」
「はい!京都といえば湯豆腐ですよね。一度は食べてみたかったんです。
良さそうなお店も見つけてありますから、そこへ行きましょう?」
趣のあるアプローチを通り、玄関をくぐると、美しい日本庭園が迎えてくれた。
明る過ぎず落ち着いた店内には、華美な装飾は一つもなく、古くからの伝統を絶やさず伝えてきた事が伺える。
「良い店だな」
素直な感想を御堂が伝えると、克哉は、店に入るまでに見せていた、少し緊張した面持ちを一変させた。
見る者まで朗らかにさせる、花の様な笑顔。
「いつも、いろんな所に連れて行って貰ってばかりだから、今日は頑張って、良いお店を探してみました」
照れながら言う恋人に、どこまで可愛ければ気が済むんだと言いたい。
こだわった食材をふんだんに使用した京料理に舌鼓を打ちながら、二人は、久方ぶりのゆったりとした食事の時間を満喫した。
旅館でチェックインを済ませると、古の街へと赴く。
「綺麗ですね〜」
ほぅっと溜め息をつきながら、見るもの一つ一つに感嘆の声を洩らす克哉の表情が、一番綺麗だと思う。
他人から見れば、のろけ以外の何物でもないが、御堂は本気でそう感じていた。
観光シーズンではないといっても、何処もそれなりに人はいるもので。
仕方ないとは思っても、いつもと変わらないこの距離が、少しもどかしくもある。
隣を歩く恋人がそんな事を考えているとは露知らず、克哉は楽しげにキョロキョロと周りを見回していたが、小路に差し掛かったところで、その視線を少し伏せた。
両脇に生える竹が林を造るその道に、先程までの様な人通りは見られない。
半歩前を歩く御堂の右手に、克哉は恐る恐る左手を伸ばした。
一瞬驚いた仕草をした恋人も、すぐにそれを強く握り返してくれる。
互いに何か喋るでもなく、ただ静かに小路を歩く。
だがその沈黙は、決して居心地の悪いものではなく、相手の熱を確かに受け取る穏やかな時間さえ呼び込んだ。
観光は克哉のプランに任せていた御堂だが、宿泊する場所だけは自分で決定し、予約を入れていた。
この地でも屈指の旅館で、景色、料理、サービス、何を取っても最高としか言いようがない所を選んだ。
チェックインした時から驚きっぱなしだった克哉だが、さらに御堂は、その旅館でも3室しかない、最も人気のある部屋の一室を取っていた。
観光も気が済むまで楽しんだから、これからはくつろぐ時間だ。
部屋には露天風呂まで付いているらしく、二人では持て余す程の広い室内からは、旅館のすぐ横を流れる川が一望でき、その向こうにそびえる山々は見る者を圧倒する。
暫く景色に夢中になっていた克哉の横に、御堂は静かに佇んだ。
「気に入ったか?」
さり気なく腰に手を回し耳元で囁けば、克哉の頬は、たちまち季節外れの紅葉のように色付く。
「・・・はい。すごく。
ありがとうございます、孝典さん。オレ、今とても幸せです」
「今、そんな顔でそんな事を言われたら、夕食まで待てなくなる」
「た、孝典さん・・・!」
腰に回した手をさらに引き寄せ、甘い熱を交わす。
「ん・・・。・・・まだ時間はたっぷりあるし、それにほら、夕食もまだって言ってたじゃないですか。お風呂にも、入ってないし・・・」
「なら、今から一緒に入るか」
「え、えぇ!?」
「どうした、何か不満でも?」
「い、いえ!そんな、全然不満とかじゃなくて・・・!
た、ただ・・・は、恥ずかしい、かな・・・って」
「今更、一緒に風呂に入る位で、そんなに恥ずかしがるのか?」
「だって・・・!ろ、露天風呂ですよ!?」
「覗かれる心配などない事くらい、君も分かってるだろう?」
「そ、それは、分かってます、けど・・・」
「なら、決まりだな」
「あ・・・」
日暮れと共に空気が冴えていく中、二人の温度は下がる事を知らない。
「ん・・・」
「克哉、起きたのか?」
「・・・?まだ暗い・・・」
「まだ夜明け前だからな。もう少し眠れ。今日も色々と廻るんだろう?」
「はい。・・・・・・孝典さん」
「何だ?」
「・・・手・・・」
「?」
訳も分からぬまま差し出した御堂の手に、克哉の手が重なり、指がゆっくりと絡む。
えへへ、と、はにかんだ恋人の顔が月の光に照らされ、御堂は思わず息を呑んだ。
そして穏やかに微笑むと、空いた方の手で、その白い頬を優しく撫でる。
「今日は一日中、このままでいるか?」
そうして、先程よりも手に力を込めると、同じか或いはそれ以上の強さで握り返してくる恋人。
きっかけは自分なのに、恥ずかしくて居た堪れないという風に顔を俯ける姿が可愛らしくて、ついついいじめたくなってしまう。
そんな衝動を抑え、御堂は軽い口づけを落とし、それに応える様に克哉も唇を寄せて囁いた。
「オレも、ずっと、こうしていたいです」
限られた時間と場所の中だけだけれど、昨日より今日、今日より明日、いつもの距離をなくして貴方とずっと歩きたい。
fin...
⇒あとがき
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