いよさん、大変お待たせ致しました!
リクエスト頂いたのは、ミドカツでノマが不安になるお話、ということで。
ちゃんとノマちゃんが不安がってくれていれば良いのですが…(鬼畜)
今回、ほぼノマちゃんの独白です。
ちょいっとアイツが出てきますが。
それでは、少しでもお楽しみ頂けると幸いです(><)
One step to step forward to you
いつもと同じ街のざわめき、晴れた空の下。
オレは今、役所の前にいる。
ひとつ大きく息を吸って、それをゆっくりと吐き出した。
「神様、オレに勇気を下さい」
小さく零した祈りを胸に、オレは一歩ずつ、入口へと向かって行った。
これまでに何度か、御堂さんが「一緒に暮らそう」と言ってくれたことはあった。
その度ごとにオレは曖昧な返答しか出来ず、結局その話はいつも、うやむやの内に流れていっていたのだ。
そんなオレの心持ちを理解してくれている恋人は、答を無理に聞こうとはせず、ずっと待ってくれている。
優しい人。
そんな、何よりも大切な、貴方の気持ちに応えたい。
けれど・・・
オレが貴方の傍にいることで、貴方に迷惑がかかるかもしれない。
オレ達の関係は、万人に受け入れられるものではないのだから。
そんな事は互いに理解している。
それでもあの人は、それに臆することなくオレの手を引いてくれ、力強い言葉で護ってくれる。
嬉しかった。
だからオレも、堂々としていて良いのだと、頭では分かっているのに。
心のどこかで、それに歯止めをかけてしまう自分がいた。
―――孝典さん
貴方はオレを強いと言うけれど、そんな事はありません。
オレは弱い。
人前で貴方の名前を呼ぶ事すら出来ないくらい、世間への目を気にするオレに、「強い」なんて言葉は不釣合いです。
今、オレには帰る場所が二つある。
一つは御堂さんのマンション。
すでにこちらに住んでいると言っても過言ではないくらい、オレの生活の中心はこの部屋から始まっている気がする。
もう一つは自分のアパート。
最近は、郵便物のチェックや部屋の換気をするために戻るだけの、こじんまりとした部屋。
それでもオレにとっては、今はまだ、なくてはならない場所だった。
独りで考え事をしたい時、落ち込んだ時、辛い時・・・
とにかくここは、今もなお、オレの避難所として機能している。
この場所がなくなれば、いよいよオレには逃げる場所がなくなってしまう。
御堂さんと一緒に暮らすということは、そういうことだ。
片時も離れず傍にいたいと思うのに、その反面、時々どうしようもなく恐くなる。
この関係に終わりが来るとすれば、それはどんな時だろう。
空想論ばかりを頭に浮かべ、ひとり悩んで落ち込み、あの場所へ帰ろうとする。
そうして矛盾と迷走の歯車はオレに構うことなく廻り続け、いつしかオレを押し潰すのだろうか。
そんな考えばかりが堂々巡りをして、結局、何の答えも出せないままの日々が続いていた、ある日。
「克哉、全然飲んでねぇじゃねえか」
「え?あ…いや、そんなことないよ」
週末の夜、出張でいない御堂さんの部屋を後にし、オレは自分のアパートに帰っていた。
その時、計ったようなタイミングで連絡してきたのは、友人の本多だった。
誘われるまま近くの居酒屋で、取りとめもない話を肴に酒を飲む。
学生時代から気が置けない友人と話すことで、心は多少軽くなった気がした。
それでも、目の前の男からしたら、いつものオレの飲みっぷりではないらしかったが。
「本当にどうしたんだ?克哉。・・・まさか、御堂にいじめられてんのか!?」
あまりに心配しすぎて、話があらぬ方向に向きそうなのを慌てて戻す。
「ち、違うよ!御堂さんはいつもすごく優しいし、頼りになるしカッコいいし・・・」
「・・・最後のは聞いてないんだが・・・」
「と、とにかく、何でもないんだ。オレがダメなだけで、御堂さんは何も・・・」
「ふーん。ま、克哉が良いならそれで良いけどよ。あいつに何か言われたりされたりしたら、すぐに言えよ。俺がぶっ飛ばしてやるからな!」
「そんなに熱くならなくても・・・。でも、ありがとう」
どこまでも変わらない友人に苦笑しながらも、言葉では足りないくらいの感謝の気持ちが生まれた。
「けどよ〜、ホントお前ってお人好しというか何と言うか・・・」
「え?」
「だってあの御堂だぜ?あんな陰険で冷酷で悪魔みたいな奴と、よく一緒に居られるよな。俺は一日でもごめんだぜ」
本人がいないのを良いことに、言いたい放題の本多にまた苦笑が漏れる。
仕事といわず、プライベートまで一緒だと知ったら、彼はどんな顔をするだろうか。
「本多、言い過ぎ。御堂さんは、そりゃ仕事には厳しい人だけど、普段はすごく優しいんだよ。
何でもそつなくこなして、とても気配りが出来る人。
完璧に見えるけど、時々すごく不器用で、でもそれ以上に真っ直ぐで・・・ふふっ、こないだなんか、道端に子猫がいてそれで・・・」
「お前、幸せそうだな」
「・・・え?」
「今日会ってから、今一番楽しそうに話してる。あいつの傍にいるお前は、こんな顔するんだって思ったら、ちょっと悔しいくらいに」
「な、なに言ってるんだよ本多!」
言われて初めて気付いた自分の顔のだらしなさに、急に熱が込み上がってくる。
「お、オレはただ、本当の事を・・・。お前が御堂さんの悪口ばっかり言うから・・・。
あの人の傍にいると、今まで見えなかった物が見える気がするんだ。
時々、ううん、いつも、置いていかれるんじゃないかって不安になるけど、ずっと隣に並んで歩いて行きたいって思ってる、から・・・誰に言われ、ても、一緒・・・に」
「克哉?」
あぁ、そっか。
そうだったんだ。
もうオレはあの人なしでは生きていけない。
誰に何を言われても、貴方の隣はオレだけであって欲しい。
たとえそれが、貴方の枷になるとしても、もうこの衝動には勝てない。
「おい、克哉、大丈夫か!?」
「え・・・?あ、うん大丈夫だよ。ありがとう、本多」
「何がだ?」
「いろいろだよ」
「?」
「ねぇ本多、住民票の変更って、何が必要だっけ?」
「あ?引越しすんのか?」
「うん。明日、朝一で行ってくるよ」
「はぁ!?急すぎんだろ!」
その他、目の前の友人に色々と説教された気もするが、あまり覚えていなかった。
オレの頭の中は、あの人の事でいっぱいで。
明日、一番に、何と言ってあのマンションのドアをくぐるか、そればかり考えていたから。
だから、またもう一歩、貴方へと踏み出します。
どうか待っていてください。
笑って、最高の「ただいま」を貴方に伝えます。
fin...
⇒あとがき
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