500打企画の時に、裕様への捧げ物として私の我侭で書かせて頂いた物です。
裕様、大変長らくお待たせ致しました。
少しでも楽しんで頂けると幸いです。





初めての…?


「・・・・・・さん」

―――誰かが私を呼んでいる。

「・・・か・・・・・・りさん」

―――もう少しだけ待ってくれ。

「・・・孝典さん!もう、初詣に行くって、約束したじゃないですか!」


豪快に布団を払いのけ、身一つとなった私に覆いかぶさる様にして顔を覗き込んでくるのは、愛しい恋人。

先程まで自分の横で寝息を立てていたと思っていたのに、彼はすでに着替えを終えている。

彼の言うとおり、確かに約束はした。

二人で迎える初めての正月だから、大切に過ごしたい、という彼の気持ちには同感だ。

だがしかし。

「克哉、寒い!」

いきなりのこの仕打ちには、少しくらい抵抗しても罰は当たらないだろう。

布団を掴んで引き寄せようとすると、そうはさすまいと克哉の手が伸びてきた。

ベッドの上で、全く色気のない攻防戦が繰り広げられる。

「まだ早いだろう!?」

「初詣は、早くから行くものですよ!」

まるで子供の様にしばらく布団の取り合いを続けていたが、ふと相手の力が緩み、バランスが狂う。

拍子抜けして負かした顔を見ると、予想に反し、悲しそうな表情を湛える克哉がいた。

その目からは今にも涙が零れそうで。

「オレ、楽しみにしてたのに・・・。孝典さんとの初詣・・・」

「だ、誰も行かないとは言ってないだろう。
〜〜〜ッ、分かった、すぐに支度をするから待ってろ」

「はい!」

・・・・・・皆まで言うな。

最初から私に勝ち目がなかったことくらい、分かっているんだ。


「それにしても、今日は本当に早起きだな」

「さっきも言ったでしょう?楽しみにしてたって」

ふふっ、と笑いながら朝食を手際よくテーブルに並べていく恋人。

それにつられて私も笑みを零したが、先程の一件で、やられっぱなしというのはやはり性に合わない。

だから、彼の今年初の困り顔を見たいと思うのも、当然の心理で・・・。

「そんなに楽しみにしていたのか。すまなかったな」

「い、いえ!オレの方こそすみません!あんな乱暴な起こし方・・・」

「いや、良いんだ。それより克哉」

「はい?」

「今日の目覚めがそんなに良かったのは、すなわち昨日は物足りなかった、ということか?」

「え?・・・・・・あ、え・・・?い、いいえ!そんな事は全然、ない…です」

言葉の意味を理解したとたん真っ赤になった恋人の顔が、可愛くてしょうがない。

昨日は克哉の誕生日ということもあり、一日中 二人でゆっくり過ごした。

無論、昨夜から今朝にかけてまでも、片時も離れずに。

克哉も同じ事を思い出したのか、耳まで赤く染め、目をきょろきょろ動かし、手元も覚束無くなっている。

ここで最後のダメ押し。

「そうか?だが、昨夜はあまり眠らせてやれなかった自覚はある。それでもよく眠れたというのなら、やはり物足り・・・」

「わぁあ!た、孝典さん!!」

言い切らない内に、恋人の叫声が部屋を包んだ。

「ずるいです…」

頬を染め、上目遣いで口を尖らせながらの一言に、その言葉はそのまま君に返すと言いたい。

「それは君だ」

「え・・・? ん・・・ッ」

「・・・初キス、だな」

「ふふっ。じゃあさっきのは初喧嘩、ですか?」

「あれは、そうだな…。あれが喧嘩なら、仲直りの必要があるな、克哉?」

「あ、ちょ、孝典さん!」

克哉の腰に手を回すと、焦ったように身じろぎをした。

「今から初詣に行くんでしょう!?」

「良いのか?今年初の喧嘩をそのままにしておいて」

「う・・・、だって・・・」

「神社や寺は逃げない」

「・・・・・・じ、じゃあ、仲直りしてから初詣、必ず行きましょうね」

「あぁ。そうしよう」


こうしてたくさんの「初めて」で、私達は、毎日新しい恋をする。






⇒あとがき

⇒小説


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