ホシシロに戻る事に決めて、俺は挨拶の為に星城病院に来ていた。挨拶とは勿論緑さんにじゃない、ふじもんとおいっちゃん(市)にだ。



「あ、いらっしゃい悠ちゃん。ふじもんは後もうちょっとで来るからここで待ってて」

「はーい…」



緑さんの指示に従うのはプライド的に嫌だが、俺は近くにある椅子に座り、ふじもんを待つことにした。

その間も、子供たちが緑さんに治療されに来る。来た時は涙目の子や、それこそ大声で泣いている子ばかりだが、そこは緑さん。持ち前のイケメンオーラと柔らかい雰囲気で注射を終わらせてしまう。



「お大事にね」

「はーい!みどり先生ありがとー!」



子どもに手を振り、緑さんはふう、と息を吐いた。お疲れ様です、と思わず言えば緑さんはへにゃりと笑ってありがと、と言う。…普段はいい人なんだけどなあ。

そんな時、男の泣き声が聞こえてきて俺はやっとか、と伸びをした。



「緑さぁぁあん!!」



緑さんの名前を大声で叫びながら入ってきたのは、予想通りふじもんこと藤本高虎。ぼさぼさな髪に、目からはどばどばと涙を流す姿を見て、どうせまた子どもを恐がらせたんだろう。

緑さんしか眼中にないふじもんにイラっときた俺は、緑さんに撫でられている頭を手加減なしで殴った。



「いったーーー!…って、あれ?悠じゃないっスか!」

「気づくの遅えよバカ!」

「いた!また殴る!」



ふじもんがギャーギャーと騒いでいると、あまりの喧騒に見兼ねたおいっちゃんがひょこっとドアから顔を出してきた。



「久しぶり、おいっちゃん」

「悠さん…!お久しぶりです!」



パタパタと犬の尻尾のようなものが見えるのは俺の幻覚だろうか。あまりの可愛さにおいっちゃんの頭をなでなでと撫でる。それに恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして固まるおいっちゃん。うん、安定の可愛さだ。



「今日はどうされたんですか?」

「ほんとほんと!悠が病院に…しかも星城病院に来るなんて珍しいっスよね!」

「あー…、その、俺さ、…ホシシロに入ったんだ」



ぽりぽりと頬を掻きながらそう告げると、二人は固まったあと「「えっ!?」」と目を見開くくらい驚いた。
まあそりゃそうなるよな。けど、二人は驚く理由が違う。

おいっちゃんは俺がサバゲーしてたことなんて知らなかったから驚いてる。けどふじもんは、また俺がサバゲーをすることに驚いているんだ。



「…戦力になれるかどうかは分からねぇけど、よろしくな」



ホシシロの誰かとチームを組んでサバゲーはしたことがない。勿論緑さんともない。だからこそ、これは賭けでもあった。

このチームで、ずっといられるかどうか。



「じゃ、今日はそれだけだから。んじゃ失礼します」



ぺこりと緑さん達に礼をして、俺は病院から出た。もうすぐ昼と夜が入れ替わる。…さあ、仕事の時間がやってくる。



「…悠さんって、サバゲーやってたんですね…」

「そっか、市は知らなかったのか」

「悠がサバゲーやってたのは何年も前っスからねぇ。TGCも2回しか出場したことないって言ってましたよ!」



家に帰ってすぐにシャワーを浴びる。目の前の鏡に映る俺の瞳は、酷く飢えていた。



「そう、なんですか…」

「市が知らないのも無理はないよ。悠は隠してたんだから。自分がサバゲーをやっていたことを」



どれだけ上辺を取り繕っていても、俺の本心は変わらない。ただ、あの情動を、緊張感を、スリルを、求めている。



「やめた理由は絶対に教えてくれないから、俺も知らないんだけどね」



キュッとシャワーを止めてタオルで水滴を拭っていく。服を着て髪の毛をセットし、再び鏡の中で自分の瞳を見れば、そこには“ホストの俺”がいた。



あの子の実力は、トップレベルって一言じゃあない」

「…緑さんよりも、強いってことですか?」

「…このホシシロの、誰よりも強いよ」



無表情な顔を暫し見つめ、両の指先でくいっと口角を無理やりあげる。そのあとスッと離して、目尻をふにゃりと下げると、さあ、『可愛い西島悠』の出来上がりだ。



「悠は、サバゲーをするために生まれてきたような子だ」


「…よし、行くか」



スーツのネクタイを緩く締め、玄関へ。そこに置いてある愛銃に指を滑らせて、俺は部屋から出た。
















「おはよう、悠。調子はどうだ?」

「おっはよっ!ふふ〜、調子ならばっちりだよぉ!」



挨拶を適当に流して控え室に入る。そこにはすでに正宗がいた。俺に気づいた正宗は「よっ!」と明るい笑顔で手を挙げた。



「正宗はいつも僕より早く来てるねぇ」

「まぁな!てか聞いてくれよ!」



蛍がさー!と元気に新入り君の話をする正宗。…正直、羨ましいと思う。そうやって素直にサバゲーが楽しいと口にできることが。



「へぇ…、楽しそうでいいなあっ!正宗のチームでサバゲーするのってほんと楽しそう!」

「っ、…そう、思うか…?」

「……?うんっ、思うよ?」



どうした?と思いながらも正宗の顔を覗き込むと、正宗の瞳はゆらゆらと揺れていた。まるで迷子みたいだ。なんだかそんな正宗は見ていられなくて、精一杯背伸びをして綺麗にセットされた正宗の髪を乱さないように優しく撫でた。



「わっ!…悠…?」

「へへー、よしよし。…何か僕が余計なこと言っちゃったみたい、…ごめんね?」

「そんなっ、悠のせいじゃ、」

「ふふ、いいの。僕のせいにしておけば、楽でしょ?正宗のそーんな変な顔、僕見たくないもん!」



にぱっと笑えば、正宗は安心したような表情を浮かべた。「…ありがとな…」とぼそりと呟いた正宗に、俺はふわりと微笑んだ。



「さっ、もうすぐ可愛い可愛いお姫様達が来るよ。その緩んだ顔はなんとかしてね、No.1の正宗っ!」



ぱしっと正宗の背中を軽く叩けば、お前もな、といつもの笑みを向けてくれた。