「ひっさしぶりー!ユカコちゃんっ!最近全然来てくれないから僕寂しかったよ…」



えーん、と泣き真似をすると、ユカコちゃんはあわあわと慌てて俺の頭をよしよしと撫でる。本気で心配そうにしているユカコちゃんに、少しだけ顔を上げて舌をぺろっと出すと、途端に顔を真っ赤にして怒ってきた。



「もぉ!悠くん!」

「えへへ、ごめーんね?これでおあいこにしよ?」

「…うんっ」

「ふふ、いい子いい子」



今度は僕がよしよしと頭を撫でると、ユカコちゃんは嬉しそうに笑んだ。その後もいろんな人の接客をして、長い夜も終わった。



「お疲れさん、悠」

「正宗こそお疲れさーん!」



松岡正宗。俺と同じホストで、とてもイケメン。サバゲーをやっているらしく、休日や仕事終わりはサバゲーに時間を費やしているそうだ。

この間、ここに乗り込んできた高校生とサバゲー対決をし、見事勝利した正宗は新たな仲間と共に練習に励んでいるらしい。



「じゃ、僕はこれで〜。またね、正宗」

「おう!またな、悠」



いつも通りの会話を交わして外に出る。自宅であるマンションに着くと、エントランスホールに誰かがしゃがみこんでいた。

こんな朝方に誰?と思いながら通り過ぎようとすると、がしりと腕を掴まれた。



「な、」

「無視するなんてひどいなあ…悠ちゃん」



その声は、酷く聞き覚えがあった。固まった俺に、目の前の男の人は嬉しそうに微笑み、するりと俺の頬に手を這わす。その動作はまるで大切な宝物を扱うかのように、優しく、甘い。



「っ、離せ!」

「っとと…。くす、相変わらず口が悪いんだから…。そんなので仕事出来てるの?」

「余計なお世話だ!…何の用、ですか…緑さん」



仮にもこの人、緑永将さんは年上。敬意を払わなければならない。さっきは思わず敬語で話すのを忘れたが、この人のことだ。そのままタメ口で話してたら恐ろしい形相で詰め寄るに違いない。



「悠ちゃんはちゃんと俺の目を見て話せて偉いよ」

「っ…子供扱いしないでください」

「ありゃ、つれないな。まあ本題はそこじゃなくてね…」



ごそごそとポケットを探り、出してきたものは…黒い、封筒。それだけでそれが何なのか、緑さんはどうして俺の元に来たのかが明確に分かった。



「おいで、ホシシロに。一緒にサバゲーしよう」



俺を腕の中に閉じ込めて逃すまいとする緑さんはどこか狂気的で、ゾッとする。

力の限りを振り絞って緑さんを振り払い、ギッと睨み付けると、緑さんは嬉しそうに瞳を細めた。



「そんなに威嚇しないの。…もうそろそろ限界だったんじゃない?サバゲー辞めてから…何年経ったっけ?」



そう、俺は元々サバゲーマー。幼少期から父親に銃やナイフの扱いを習い、高校ではサバゲー部に所属していた。

勿論、正宗はその事を知らない。というか、仕事仲間にそんな事を話すほど親しい間柄だとも思っていない。



「俺は、…俺は…っ!」

「戻っておいで。一緒にサバゲーしよ?一緒に…TGCに出よう」



甘い甘い誘惑。差し伸ばされた手を、俺は確かに掴んでしまった。