「あっ、悠!今日カラオケ行かねー?」

「お、悪りぃ!また今度誘って!」

「西島君!これ…良かったら食べて?実習で作ったの!」

「え…わぁ!牛乳プリンじゃん!え、くれんの!? サンキュー!超嬉しい!」

「西島くぅん!私のもあげるー!」

「あっ、あたしも!」

「やだ、ちょっとどきなさいよ!西島君、あたしのも良かったら……」

「え、みんな牛乳プリン?やった!これなかなか売ってないからスゲー嬉しい!美味しくいただくよ、ありがとう!」



放課後、女子達が牛乳プリンを持って来てくれた。なんて優しい子たちなんだ!これで今日頑張れる!

一人の子が紙袋ごと持って来てくれたから、それに一つ一つ丁寧に入れていく。うわぁ、超旨そう…やべ、涎が。



「じゃ、俺部活あるから行くわ。ほんとありがとう!」

『『『頑張ってね〜!!』』』



あまり紙袋を揺らさないように、けど今ので時間食ったから、ちょっと急ぐ。

体育館には、もうすでに全員集まっていた。



「遅れてすみません!」

「遅いぞ西島!ほら、さっさと入れ!!」

「はい!」



烏養監督の言葉に、俺は素早く靴を履き替えて軽く準備をしてから練習に加わった。もうすでにみんな汗だくだ。



「行くぞ!!」



烏養監督の合図に、俺は構える。バシッとボールが飛んで来て、俺はレシーブでボールを上げる。



「西島ナイスレシーブ!!」



澤村先輩の声かけが、耳に入った。



「「これが最後の一球!」常にそう思って喰らいつけ!! そうじゃなきゃ、今疎かにした一球が、試合で泣く一球になるぞ!!」



その言葉は、俺には馴染みのなかったものだ。試合で泣く一球なんて無かったし、そもそも一球たりとも疎かにしたことはなかった。


だけど、これはバスケとは違う。


仲間から仲間へ、“繋ぐ”競技。






「――で、早速ですが、IH予選は来月6月2日からスタートです」

「宮城は地区予選ねえから、すぐ県予選だ。全国大会へ進めるのは、県内約60チーム中1チームのみ。一回負けた時点で道は途切れる。

音駒にリベンジしたきゃ、まずこの宮城で1番になる他無い。2位じゃ駄目だ。

…まあ、音駒(むこう)にも東京代表に入ってもらわねえとなんないけどな」



音駒?どこそれ?つか東京と試合したの?



「東京は学校多いから代表は2チーム選出だっけ?」

「だな、確か」


「大丈夫っスよ、アイツらなら!」

「おお、強かったっスもん」

「そうだな」



へぇ…そんな強いとこなら、一度見て見たかったなー。まあ、IH勝ち進んで行けば会えるか。



「(それより…IHかぁ…“あっち”はどうなってんだろうな…)」



バスケももうすぐ始まる頃だ。激戦になることは目に見えてる。



「どうしたもんかね…」

「うぉ!」

「ホントだスゲー!写真でけー!」

「なんスか!? どしたんスか!?」



先輩たちが騒いでいるところへ、日向と影山が乱入。そこに俺もひょいっと入った。

田中先輩が見せてくれたのは、月刊バリボー。あれだな、月バスみたいなもんか。



「“高校注目選手ピックアップ”…?」

「今年の注目選手の中でも“特に注目!”ってなってる全国の3人の中に、白鳥沢の“ウシワカ”が入ってんだよ」

「白鳥沢って影山が落ちた高校(トコ)!!」
「うるせえ!!!」



全国で3人だけしかピックアップされてないのか…てことは、そのウシワカって奴は相当凄いってことだよな。

白鳥沢がどんなとこかも知らねえけど。



「……で、“ウシワカ”…って?」

「なんだ、知らねーのか」

「日向は“小さな巨人”ばっかだもんな」

「ウシワカっつーのは、県内では間違いなく今No.1エースの――牛島若利だ」



へえ…この人が県内No.1のエース…。

あれだ、大輝とはなんか違うな。あいつはこんなキリッとした顔できねーもん。



「――…そんで次…ああ…、こことは一回やってるか。…セッターなら攻撃力でもチーム1。勿論セッターとしても優秀。恐らく総合力では県内トップ選手(プレイヤー)の――…

及川徹率いる、青葉城西。

青城(ここ)は去年のベスト4だな」



なぜかみんなの顔が険しくなった。田中先輩はあれだけど。

一回戦ったことあるんだ。つか勝ってるし。…もしかしなくても、烏野のバレー部って強いの?



「あとは言わずもがな――超高校級エース、牛島若利擁する

王者白鳥沢」



おぉ、王者!なんか懐かしい響き!つか超高校級とかどんくらいなんだろ?

先輩たちの話聞いてると、青城の及川?先輩は凄いらしい。



「――と、まあ…この辺が“俺的今年の4強”だ。――と言ってみたものの、“上”ばっか見てると、足掬われることになる」



確かに、高望みしすぎて目の前の敵に集中してなきゃ、勝てるもんも勝てなくなる。



「大会に出て来る以上、負けに来るチームなんか居ねえ。全員、勝ちに来るんだ。

俺達が必死こいて練習してる間は、当然他の連中も必死こいて練習してる。弱小だろうが強豪だろうが、勝つつもりの奴らはな。それ、忘れんなよ」

「オス」

「――そんで、そいつらの誰にも


もう“飛べない烏”なんて呼ばせんな」


『『『あス!!』』』

「(あ、あす!?)は、はい!」

「……西島…」

「や、だってそんな返事したことないんですもん!」

「慣れろ!」

「んな無茶な!」




その後、武ちゃん先生がIHの組み合わせを持って来てくれた。どうやらこの組み合わせ、

一波乱起きそうだ。


――ピリリリ



「ぅぉっ、ビビった!」

「あ、すみません、俺です」

「出ていいぞー」

「ありがとうございます、」



いきなり俺の携帯が鳴る。許可も貰ってスマホに指を滑らすと、そこに表示された名前に思わず顔を顰めた。

そんな俺を、日向が首を傾げて見ている。



「出ねーの?鳴ってるぞ!」

「ぅグッ…出たくないんだよ…」

「西島さっさと出ろー、うるさい」

「……はい…………もしもし、いきなりどうしたんだ?



征十郎」



何故か黙ってしまったバレー部のみなさん。勿論目は俺に向いている。やめて、緊張する。

そんな俺の状況が、まるで全て分かっているかのように、征十郎はくつくつと喉で笑った。



《不機嫌だな、悠?》

「誰のせいだ誰の。つかほんと何の用事?」

《ああ、別にこれと言ったことはない。ただ…まだ悠がどこの高校に行ったかは聞いていなかったと思ってね》



…今更、何でそんなことを聞いてくる?征十郎は何を考えてる?



「……言わなくてももう知ってんだろ?」

《悠の口から聞きたいんだよ》

「…ハァ、烏野だよ、宮城の」

《ふふ、そうか。だが、好ましくないな、その選択は。何故そんな処へ?》

「……別に、俺の勝手だろ」



こう言われると分かっていたから、言いたくなかったんだ。段々と目に見えるくらいに不機嫌になってきた俺を、みんなは目を丸くして見ている。

ハァ、とまたため息を吐いて、俺は軽くセットしてある髪をぐしゃぐしゃ、と掻き乱した。



《悠、敢えて聞くが――バスケ部には入っているのか?》



何だよ、その質問。



「……入ってない」

《そうか、なら悠とは戦えないな》

「…怒らねえの?」

《誓いは忘れてないだろう?》

「……ああ、ちゃんと覚えてるよ。けど、俺はもう果たせないけどな」

《構わない。そんな処でバスケをやられていても困る。で、悠は今何部なんだ?》

「…よく俺が部活に入ってるって分かったな」

《僕に分からないことはない》



“僕”?確か征十郎は“俺”って言ってなかったか?
ここはスルーするべきだろう、と俺は征十郎の質問の答えを口にした。



「バレー部だ」



そう答えた瞬間、何故かバレー部の人達がブワッと泣き出した。耳を澄ませて聞いていくと、どうやら嬉しいらしい。なんでだ。



《へぇ、そう……悠がチームプレーをしているのか》

「む、何だよその言い方!俺だってチームプレーぐらいできるに決まってんだろ!」



いきなりムキになりだした俺を、また驚きの表情で見てきた。けどそんな事よりも、俺は征十郎に対してちょっと怒っている。



《怒るな、ただ…自分でも分かっているだろう?悠は、いや…僕達にチームプレーは必要無いと》

「ッうるさい!それはバスケの話だろ!? 俺は、俺はもうやめたんだよ!」

《無理だ、お前に…悠にバスケはやめられない》

「っ、……もう、切るぞ…」

《あぁ、長々とすまないね。それともうひとつ…


IH、勝つのは僕だ》



それじゃあ、と征十郎は電話を切った。俺も続けて電話を切る。



「…西島、今のは…?」

「中学の時の主将です。今は洛山っていう京都にあるバスケの強豪校で主将をやってます」

「3年か、仲良かったのか?」

「?いえ、俺と同い年ですよ、1年です」


『『『はぁぁ!?』』』



いきなりの大声に俺はビクッとなる。え、俺今変なこと言った?



「おま、1年で主将ってどういうことだ!?」

「ここここ、こぇぇ…!」



影山がグワっと迫ってきた。日向はガクガクと震えている。

あぁそうか、普通じゃないのか。



「まあ…そういう奴、というしか…」



さて、困ったものだ。









そうして部活も終わり、帰ろうとしていた時、



「あ、西島!」

「んあ?…あ、樫宮の…」

「これ、お前載ってたぞ」



バサっと見せてきたのは、懐かしの月バス。それにみんなも何だ何だと群がって来る。

つか、今更俺が載ってるってどういうことだよ。ペラっとページを捲ると、そこにはキセキ特集が組まれていた。



「キセキ特集なんざ散々やってきたじゃん…なんで今更……うわぁ、この涼太カメラ目線じゃん、確かこの時試合中じゃなかったっけ?っえ、てかこの写真中学の時のじゃねーか!」



だからか、見覚えあるの!ほら、だって帝光のユニフォーム着てるし!



「あばばば、やばいやばい!」

「あ、西島だ!」

「何々……“キセキの世代の王子様 西島 悠”…プッ」

「おいコラ月島!笑うなよ!」



なんつー恥ずかしいネームバリューだよ!この編集者センスなさすぎだろ!



「ポジションはSF…?」

「それ、スモールフォワードって読むんです。万能型で、シュータータイプからインサイド型まで、いろんなプレースタイルがあるんです。ちなみに俺はシュータータイプの方です」

「へぇー、始めたのは……5歳!?」

「って言っても、最初はボール遊びみたいなところからでしたよ」



それ、大袈裟に書いてるだけですから。と苦笑する。



「それと、……こいつ、黄瀬涼太と同ポジションでしたし、俺はあまり公式戦には出てないですから。どっちかっていうと、練習試合とかで出る方が多かったですし」

「へえー!こいつらみんな強いのか!?」

「強い強い。ま、黄瀬は下っ端な。でー…っと、こいつ、青峰はキセキの世代のエースって呼ばれてる」



トン、と大輝のページを捲り、大輝を指差す。あ、てかこの写真ダンク決めてるとこじゃん。カッコイイ、ズルイ。



「“DF不可能の点取り屋”…?」

「アンストッパブルスコアラー、そう呼ばれてます」

「ディフェンスが不可能、なのか?」



澤村先輩の顔には、あり得ない、と書いてある。



「それを可能にするのが、青峰大輝という男です」



またペラペラーとページを捲るが、やっぱりとでも言うべきか、テツヤはいない。

クスリ、と笑ってから俺は雑誌を返した。



「それじゃ、俺お先に失礼しますね。お疲れ様でした」

「お、おー、お疲れ」



ぺこりと軽く礼をして、俺は帰った。




バレーも、バスケも、



もうすぐ、インターハイ。