体育館は、静寂に包まれ、
大きな歓声が沸き起こった
「すっげえ!! 今の!今のなんだよ!」
「うるせェ日向ボゲェ!!」
「あそこまでのコントロール…並の奴じゃ無理だぞ…」
あー、また日向の奴騒いでんな。そんな事を思っているうちに、敵がさっきと同じようにパスワークを駆使して俺を抜こうとする。
……けど、
「もう、そっちに点が入ることは――ない」
スッと、掬うようにボールを奪い、そのままゴールまで走る。一人追いついた奴と、センターの奴がボールを奪おうとするが、俺はキュッと止まり、タンタンタン、と三回足でリズムを取り、一気に抜いた。
そしてその勢いのまま、ゴールに向かって跳んだ。――ダンクシュート、だ。
――ガンッ!!!
「ッ、くそ……!」
「やっぱ、無理だろ……」
……ほら、聴こえてきた。諦める声が。
何にも変わらない。あの頃と。
今度は速攻で攻めてきた。パスをスティールして、またゴールへ向かう。すると、待ち構えていたセンターがグッと目に力を入れて俺を射抜く。
フ、と俺は何故か口元が綻ぶ。
まだ、こんな人がいるんなら…手を抜くなんて邪道だよな。
俺はドリブルしながらスゥ…と目を閉じて、耳を澄ませる。1秒にも満たないが、これで十分。
グワっとガタイのいいセンターが迫ってきたが、俺はヒラヒラと踊るように巧みにかわす。そして一瞬の隙をついてトンっと軽く、高く跳んでまたダンクを決めた。
そんな攻防が続き、結局試合は俺の勝ちだった。
「…それじゃあ、約束通り…もう俺を勧誘すんのはやめてください。
それと、今日はこんな我儘聞いてくださり、ありがとうございました」
グイッとタオルで汗を拭い、ぺこりと礼をして体育館から出た。サァァ、と気持ちのいい風が、熱のこもった肌にはちょうどよかった。
「西島!」
「ぅおっ…日向、」
「お前すげぇな!!」
「え、あ…さんきゅ」
キラキラした目で俺を見つめてくる日向。思えば久々かもな、こういう反応は。
「あんなにスゲーのに、バスケ部入んないのか?」
「……まぁな。ここのバスケ部には入らない」
「ならさっ、バレー部入れよ!」
「………は?」
ちょっと待て、一体どこでどうそこに行き着く。日向の思考回路はどうなってんだ。
ニコニコと笑顔の日向を見つめていると、バレー部の人たちがワラワラと集まって来た。あーもう、来ると思ったから早く帰りたかったのに。
「凄かったなー、西島!」
「…ありがとうございます」
「ふーん、お前が西島?」
「……そう、ですけど…(誰、この人。ていうか身長俺と同じくらい…だよな、だよな!!)」
「(こいつ…俺と身長一緒だ!!)」
思ったことは同じなようだ。お互い数秒見つめあった後、ガシッと手を握り合った。いきなりの事で、他の人たちは驚いている。
「に、西谷?」
「俺は2年の西谷 夕!身長は159.3!」
「俺は1年の西島 悠です!身長は158.3です!」
「そうか!さっきのお前見てたぞ!スッゲーかっこよかった!」
「あ、ありがとうございます!」
「お前には…いや、悠には特別に夕と呼ばせてやる!だからバレー部に入れ!!」
「はい!夕先輩!………あ、」
やっ ち まっ た………!!
嵌められた!と夕先輩を見れば、ニヤッと意地悪い笑みを浮かべていた。他の人たちはナイス!と褒め称えている。
やばい、テンションあげすぎた。なんでよりによってバレー部…。
「それじゃあよろしくな、西島。改めて自己紹介しておくぞー。俺は3年、バレー部部長の澤村 大地だ、よろしくな」
「俺は副部長の菅原 孝支、同じく3年、よろしくなー」
「俺は3年の東峰 旭だ、よろしくな」
まずは3年生。なんかしっかりしてるな…東峰先輩は…老けて…ゴホンッ!…大人っぽく見えるな。
澤村先輩は頼もしいし、菅原先輩は優しそうだ。
「で、俺はさっきも言ったけど、2年の西谷 夕!よろしく!」
「俺は2年の田中 龍之介だ!よろしくな!あとイケメン滅べコノヤロウ!!」
「田中やめろって!恥ずかしい…あ、俺は2年の縁下 力。よろしくな」
「俺は木下 久志。2年だ、よろしくな、」
「2年の成田 和仁、よろしく!」
2年生は賑やか担当。夕先輩は男気あるし、田中先輩は…うん、なんかあったのかな。縁下先輩は眠そうだし、木下先輩と成田先輩は遠くから見守る母親、的な?
「次は俺!俺は1年の日向 翔陽!やっとバレー部入ってくれたのかよぉぉ!」
「…1年、影山 飛雄」
「1年、月島 蛍。よろしくね、王子様ぁー」
「い、1年、山口 忠。よろしく」
1年生は四人か。結構ギリギリでやってんのか…な?
中学の時の部員が多かったから、なんか新鮮だ。
「俺は西島 悠、1年です。バレーは体育とかでしかやったことありませんが、勘張ります。宜しくお願いします」
深く、頭を下げる。
こうして、俺の止まっていた高校生活が
スタートした。
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