その翌日から、よく日向に絡まれるようになった。
「なあなあ!バレー部入れよ!一緒にバレーやろう!!」
「何で俺がバレーやんなきゃならないんだよ。バスケしかしねぇ」
「何でだよぉおお!!」
「しつこいぞ、日向。悠が困ってんだろー?」
「ぬぐぐぐ……!」
日向の勧誘を、そこそこ仲のいい友達が助けてくれた。日向は何かに耐えるようにキュっと口元を引き締め、ダァッ!と走って行った。
どうやら思っているよりも疲れているらしい。ふぅ、と息を軽く吐くと友達は笑って俺の背中を叩き、離れて行く。
あ、俺のこと分かってくれてる。
今、俺は一人になりたかった。それをあいつは分かってくれてる。
そんな小さなことが、無性に嬉しかった。
「………逃げ続けんのは、ダメだよな」
大輝、お前今もそこで欠伸してんのかよ。うかうかしてると足元掬われるぞ。
「俺はもう…―――」
グッと拳を握りしめ、放課後の廊下をなるべく急いで歩いた。
「とうとう入ってくれるのか!?」
「……それは今からの結果次第です」
「結果?」
「3on1。勿論俺が1。このゲームで、もしもそちらが勝てば…バスケ部に入部します。
ですが、もしも俺が勝てば……今後一切バスケ部の入部勧誘はやめてください」
自分でも、生意気なこと言ってるってわかってる。でもこうしないと俺は前に進めない。
「……わかった」
「…ありがとうございます」
ここの人も凄いお人好しだよな。普通一年にこんな好き勝手言われたら怒るよ。
ふ、と俺は緩く目を瞑り、アップを取り始めた。
数十分後、俺とバスケ部レギュラー三人がコートに並ぶ。全員俺より背ははるかに高い。悔しい。
試合が始まる直前、あの声がこの体育館によく響いた。
「西島ー!!」
「っ!ひ、なた……!バレー部の皆さんまで……」
「見に来たぞ!」
満面の笑みを向けてくる日向が、とてつもなく眩しかった。
きっと、日向は違うと思うけど、他の人たちは俺を見に来たんだろう。純粋な勝ち負けじゃなく、俺の才能を。
「…なら、出し惜しみしてられないよな。それに…
手加減する気も毛頭ない」
ピリピリとした緊張感が背筋を走る。この雰囲気は全中の時とかとよく似てる。
ひどく、心地いい。
「ゲームは5点先取。あぁ、ハンデとして俺だけ10点にします。ボールはそちらからどうぞ」
わかりやすい明確なルールを口にする。今のは馬鹿にした、とか思われてないかな?いや、思われてるだろう。
現にバレー部の人たちからの視線が半端じゃないし。
「…それじゃあ、ティップオフ!!」
ピーッ!試合始まりの合図が、今鳴った。
キュッキュッ、とバッシュの音が耳を擽る。目の前でボールを持っている5番は、一生懸命俺を抜こうと模索している。
その間、俺はずっと耳と目を澄ませていた。
敵の呼吸、鼓動、眼球、瞬き、口元。
「っ!」
すると5番は素早くゴール下付近にいた3番にパスして、そのまま3番はレイアップシュートを決めた。
ワァアア!と歓声が体育館を包む。けど、樫宮中のアイツだけは、これから起こることがもうわかっているのだろう。顔を蒼白させ、俺を、俺だけを見つめていた。
「……フッ」
「!!」
そんなアイツを俺は嘲笑した。
次のボールは俺から。ダムダム、とエンドラインからボールを弾ませ、感触を確かめた。
「…――さあ、始めようか」
ニィ、と口元に弧を描き、俺はキュキュッ!とハーフラインまで進み、そこからゴールに向かってボールを放った。
ボールは綺麗な放物線を描いて、リングに当たることなくネットをくぐった。
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