名前を教えてもらった目つき悪男、もとい影山がものすんごい目で俺を睨んでくる。けど、俺はそれに構わずいつでも打てる準備をしていた。


フッ、と影山が息を吐く。それを合図に澤村先輩が影山に向かってボールを打った。

ボールは弧を描いて影山の元へ。


見逃すな、瞬きもするな。


ボールが、影山の手に



触 れ た



――シュッ、ダン!



そんな音を響かせたと思うと、ボールはネットの向こう側に転がっていた。


それに体育館はざわめき立つが、俺はボールを打った右手がジンジンしているため、気にもならない。ていうかこういう反応は慣れているのだ。



「…お、まえ……何モンだよ…」



信じられないとでも言いたげに影山はみんなを代表して問うてきた。ふうふうと俺は右手に息を吹きかけながらあ?と面倒臭そうに答えた。



「…元帝光中男子バスケ部、だけど?」

「バスケ部!? 俺よりちっせーのに!?」

「でも、実際日向よりも高く、速く跳んでた。…運動神経が良い、で片付けられる事じゃないぞ」

「スガの言う通りだ」

「ハァー…ですから、俺は「キセキの世代」



俺の言葉を遮ったのは、元樫宮中の男。あいつが発した単語に、この場にいる全員が聞きたそうに首を傾げた。



「その…キセキの世代?ってなに?」

「まーた大層な名前だなあ!」

「田中その顔やめろ…で、キセキの世代ってなんだ?」

「帝光中に10年に1人と言われたバスケの天才が5人同時に存在して、その三年間、無敗を誇った世代の名称だ。

西島はあまり公式戦では出てなかったから、周りからはキセキの世代は5人って言われているが、本当は6人実在する。その6人合わせてキセキの世代だ」

「10年に1人の天才…」



元樫宮中のその言い方に少しムッとする。俺のことに対してじゃない。

あいつの名前ないことに対してだ。



「おい、1人忘れてる」

「は?」

「キセキの世代が一目置いていた選手、"幻の六人目"(シックスマン)のことだよ」



才能が開花した最後の全中に、チームプレーは確かになかった。だけどそれまでチームを繋いでいてくれたのは、影であるシックスマン――黒子テツヤのおかげだ。



今、彼はどうしているだろうか。



「…ああ、黒子、だっけ…」

「…二度と忘れんな」



ギロリと睨みつけ、俺は体育館から出ようと扉を目指すと、さっきの影山が目の前に立ちはだかった。



「……なに?」

「お前、バレー部に入れ」

「フッ…冗談やめてよ。俺はバスケ以外にするつもりないからさ。この才能も、バレーのために得たものじゃないんだよ」



ごめんね、とでも言うようにヒラヒラと手を振り、俺は今度こそ体育館から出て行った。


その後、ついっともう一つの体育館に目線を送ると、やはりもう暗いからか、中は誰もいなかった。

女バレも帰ったらしく、バスケ部もいなかった。



「……いい、よな?」



そろーり、と中へ入る。ほう、と一息吐いて毎日持って来ているバッシュとボールを取り出す。

キュッ、とスキール音が鳴り響くだけで、気分が高揚するのがわかる。



「…っし!」



ダムッ!とボールの弾む音が無人の体育館に響き渡った。