夏前のジトリと湿った風が頬をくすぐる。鬱陶しいと思いながら莉藍は教室でお弁当を広げていた。
ワイワイと楽しそうにお喋りしながら食事をしているクラスメイト達を視界に入れる事もせず、ただ黙々と食べ進める。
たまに空を見上げては、眩しそうに目を細める姿はどこか儚げだ。
「キャーッ!! テニス部の皆さんよ!!」
「レギュラー皆揃ってる!」
「ああんっ、幸村様麗しい…!」
「仁王君の輝く銀髪も素敵…!」
「ブン太君の可愛さも負けてないわよ!」
「柳君のデータに私は載ってるかしら…!」
「真田君の寡黙さも惹かれるわよね〜!」
『『もうみんな素敵〜!!!』』
……何だこれは。
莉藍が箸で摘まんだ玉子焼きを思わずポロっと落としてしまう。以前からこうして騒がしい時はあったが、今日はまた凄い。
うわ、と洩れた莉藍の呟きは女の子達の歓喜の声でかき消されてしまった。
――男子テニス部
彼らは中学の時、大会三連覇を逃したと言うのを莉藍はさつきから聞いていた。と言うのも別に莉藍から頼んだ訳ではない。さつきが自ら調べて教えてくれたのだ。
「立海大付属?」
「うん、そこに行こうかなって思ってるの」
「な、何で!? そこはキセキの皆は誰も行ってないよ!?」
「何でって…皆と同じ学校行ったら、全員を応援出来ないから……」
「んもう莉藍ったら!照れちゃって可愛い!」
「かっ!? だ、誰が!!」
「ふふっ、そっかあ…。あ、なら私立海調べるね!ね、赤司君!」
「ああ、頼んだぞ桃井」
「……もう好きにして下さい」
その後は結局他のキセキの人達まで出てきて莉藍に何故立海なんだやれ俺と同じ所に来いだの我儘が炸裂したのだ。
あの日の事を思い出してふっと遠い目をしていると、ちょうど5時間目が始まるチャイムが鳴った。ガタガタと椅子の音が教室に響く中、教師が中へ入ってくる。
「(みんな、今頃何してるかなぁ…)」
あ、飛行機雲だ。なんて子供のような事を思いながら口元を緩めた。
彼らもあの飛行機雲を見てるかな、と想像しながら。
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