「ねぇ聞いてウイス!この“くれーぷ”っていうスイーツ、すっごく美味しいの!この生地がもちもちしててね、中はあま〜い生クリームと、みずみずしいフルーツがたっくさん入っててね!」

「まぁ、なんと美味しそうな!ちょっと私にも一口……ん〜〜っ!またこれはなんと美味な!」

「でしょう!? あー…地球最高…。こんな素敵な地球を滅ぼそうとした神様なんて最低ー」

「それを言ってはいけませんよ。今は昼寝中でも、いきなり起きてしまうのがあの人なんですから」

「はぁーい」



そうしてまた食べ進める二人。と、そこへやって来たのは二人の主人、破壊神ビルスだ。

ビルスは眠そうに目を擦りながら二人に近寄る。口元にはだらしなく涎の跡が。



「あ、ビルス様。おはようございます!」

「これはこれはビルス様、随分とお早いお目覚めで」

「んー。なーんか夢見た」

「夢?また人騒がせな夢とかじゃないですよね……」



嫌そうに顔を歪めたメリル。それもそうだ。以前ビルスが見た夢に出てきた「スーパーサイヤ人ゴッド」を探すために地球へ行き、大惨事となったのだから。こんな美味しいものがあったのに、それでも破壊しようとするビルスに対して久しぶりの憤りを感じたが、相手は神様。しかも自分の主人だ。逆らうなど出来やしないのである。



「で、夢ってどんなのです?」

「ん〜〜〜、アラビアンっぽいものが見えたな」

「アラビアン?それって今存在してるんですか?」

「何百年前に見た記憶がありますけど……ビルス様が消滅させてしまったのではありませんでした?」



ウイスがうっすらと口元に笑みを浮かべてそんなことを言う。ビルスは「え、……そうだった?」と知らぬ存ぜぬを通すようだ。



「私もうーっすらと覚えてるような…。あ、確かあの時ビルス様ってば『礼儀に欠ける』だとかなんかで壊しちゃいましたよね?」

「あぁ、そうでしたねぇ。それも料理の一つも食べずに」

「そ、そうだったかな?」



冷や汗ダラダラのビルス。どうやら思い出してきたようだ。



「で、その夢がなんなんですか?また予知夢とか言いませんよね?」

「メリル、お前さては僕の夢を馬鹿にしてるな?」

「してませんよー。ただ面倒だなってのはありますけど」

「こら、本音はしまっておきなさい」

「はーい!」



ぷるぷると震えるビルスを置いて、ウイスがメリルに軽く注意をする。ウイスの言うことであれば、とメリルは元気に返事をした。



「……まぁいい。それで、その夢だが…、」



ビルスが話を切り出したその瞬間、メリルは何かに引っ張られるかのように後ろに仰け反る。「え、」と声が勝手に出たが、体は止まることなくズルズルと後ろへ。首だけ後ろに向けると、そこには黒い穴があった。



「え、えっ、えぇ!?び、ビルス様!何遊んでるんですか!?」

「僕じゃない!誰だ、僕の星で好き勝手やっている者は!!」

「ビルス様、どうやらこれはこの世界のものではないようです」

「どういうことだ?…まあ、それは後でいい。先にメリルだ」



ビルスはメリルをその黒い穴から引っ張り出そうと一瞬にして移動したが、メリルの体は半分以上穴に埋まってる。



「び、ビルス様!」

「メリル!」

「いや、嫌です…っ!私は、ビルス様と、ウイスと、もっと美味しいもの食べたい…っ!離れるのなんて嫌です…!」

「メリル!勝手に消えるなんて僕は許さないぞ!!」

「ビルスさま、」



最後にビルスの名前を呟いて、メリルは穴の中に消えていった。黒い穴はメリルを飲み込んだ瞬間にまるで収縮するかのように小さくなって消えた。



「………メリル…」

「…ビルス様、どうするおつもりで?」

「……もちろん、メリルを取り戻す。何処の誰がどうやったか知らないが、僕のものを勝手にとられたんだ。星を破壊するだけじゃあ満足いかない。全部だ。

全部壊す」



冷え切ったビルスの声。ウイスはそんな主人にクスリと笑い、「では、まずは情報収集からですね」と準備を始めたのだった。







――シンドリア上空


「王よ!シンドリア上空に生命反応あり!結界に近づいています!」

「何だと?…すぐに迎撃準備を!」

「はっ!!」



ヤムライハが慌ててやって来たかと思えば、シンドバッドに報告をする。その内容は思ってもみなかったもので、シンドバッドも考えながら指示を出す。どうやらマスルールも匂いを感知したとのことで、ますます信憑性が上がってきた。

いったい何者なのか。

シンドバッドは金属器を持っていることを確認してから、部屋を出た。



「シン!」

「ジャーファル!侵入者は?」

「それが……、」



ジャーファルが上を見上げる。それに倣うようにシンドバッドも見上げると、そこには女が浮いていた。



「い、意味わかんない…。なに、いきなり空から落ちるって!舞空術使えて良かった……」



心底ホッとしたメリルは下を見る。数十人もの人がこちらを見ていることに気づいたからだ。



「……なるほど、確かにアラビアンな国だね…。またビルス様の予知夢当たり?やだなあ…でも、ビルス様も予想外ってかどこか焦ってたよね?」



しかし、その星も数百年前にビルスが破壊したはずだ。

うーん、と首を傾げているが、このままだと何も分からないと下に降りることに。幸いにもたくさん人がいるおかげで、いろいろと尋ねることが出来そうだ。



「っと。すみませ、」



ん。そう言おうとしたメリルだが、即座に右手が紐のようなもので絡め取られ、にこやかに浮かべられていた笑顔が固まった。

その紐とはジャーファルの眷属器だ。ジャーファルは降りてきた敵に対して即座に己の武器で捕らえることに成功したのだ。したのだが、



「何者だ」

「いきなり何…?」

「何者だと聞いているんだ」

「何者……?アンタこそ何者、と言うか何様なわけ?私に対してこんな仕打ちしてくれるだなんて…」



ざわざわと込み上げるは怒り。それに伴ってコントロールしていた気がだんだん上がっていく。メリルは己の腕に絡まっている紐を軽い力で引っ張り、距離の縮まったジャーファルの首を思い切り左手で掴んだ。

見た目は非力な少女。だがその戦闘力は悟空やベジータを凌駕する。そんな力で首を絞められては、戦闘民族でもなんでもないジャーファルなぞイチコロだった。



「ぐっ、……っ、っ…!!」

「ねぇ、ただの非力な人間が何様のつもりなの?ねぇ、ねぇ!私がアンタに何かした?こっちはビルス様やウイスから無理やり離れ離れにされて苛立ってんの。それを抑えてにこにこ笑顔浮かべてここはどこか聞こうとしてたのに、いきなりこんな変な紐で服の袖を汚されて?腕も傷つけられて?いくら私が温厚だからって怒るよ?」



ギリギリと首を絞め上げる力は強まる。だんだんとジャーファルの顔色も青くなってきた。あともう少しで死んでしまう、そんな時だった。

シンドバッドが首を絞めるメリルの左腕を掴んだ。



「……なあに?今ちょっと忙しいの。あとにして?」

「それは無理だ。その者は俺の従者でね、彼は俺を守るためにこんな行動に出たんだ。許してやってくれないか」

「従者?じゃあ貴方が主?」

「そうだ。俺はこの国の王、シンドバッドだ!」

「…ふうん?」



力強く名前を口にしたシンドバッドにイマイチ分かっていないが、それでも頷いたメリルはパッとジャーファルを離す。どさりと地面に落ちたジャーファルはゴホゴホと咳き込みながら息を吸い込む。

緩んだ紐を腕から外し、少し袖に付いた汚れをパンパンと払う。



「えっと、じゃあ改めまして!メリルと申します。いきなりお邪魔してしまい申し訳有りませんでした。余計な混乱を招いてしまったみたいで」

「いや、こちらこそいきなりすまなかった。…で、お嬢さんはこの国に何の用かな?」

「用なんてありません。いきなりこの国へと無理やり連れてこられたようなものなので」

「……詳しく聞いても?」



もちろん、と頷いたメリルは、まずはもう一度きちんと自己紹介しようと提案した。